「革命家のゴミ屋敷に泊まる〜SNAIL RAMPの作り方・21」タケムラ アキラ『炎上くらいしてみたい』

連載・コラム

[2019/5/22 12:00]

1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのフロントマン・タケムラ アキラが書きたいことを超ダラダラ綴っていく新連載!


前回のコラムに1996年4月2日に下北沢SHELTERでSNAIL RAMP初のイベントを敢行したことを書いたが、その3ヵ月前、初めて受けた地方からのオファーでライブをしている。しかも福岡。

現地に『二日市ウルフ』というメロディック系のバンドがおり、その早川という男がSNAIL RAMPのデモテープを聴き、いきなり「福岡でライブしませんか?」と連絡を寄こしたのだ。それまでの人生で九州自体に立ち入った経験もない俺は「行く!」と即答し、メンバー3人で楽器だけ担ぎ、福岡へ飛んだ。

なるべく安く済ませるために朝6時40分だかの飛行機に乗る。それぞれの家からだとそのフライトに間に合わないため、俺の家にメンバー全員で泊まり、そこから出発した。現地での宿泊は「うちに泊まれるので、使ってください」と早川が太鼓判を押すので、安心して東京を発った。

福岡空港まで、早川が車で迎えに来てくれていた。しかし迎えに来た彼の姿は、なかなかに異様だった。身長は170センチ前後であろうか、やたらとヒョロヒョロした体。メタルの人とも違う、ただただ不潔感しかない長髪。メガネをかけてはいるのだが、片方のアーム(いわゆるツル)はなく、なんでかけていられるのかが不思議だ。そして当然のように前歯が2〜3本なかった。

「絶対ムリなのに、いつまでも革命を夢想している過激派」

そんな風体をした男が俺たちを迎えに来ていた。その車でまずは早川宅に向かった。そこはコーポやハイツと呼ばれるような2階建ての建物で、現地の大学生が住むような家だった。

「まあ入ってください」と開けられた玄関ドアから室内を覗くと、そこはゴミと散乱したものに埋め尽くされた空間が、何かパラダイスであるかのように広がっていた。

「マジかよ」とは思ったが、これからみんなで片付けるのかなとも思いながら入室。「ひとりはそこで寝てください」と示された先には、シーツが人型にうす茶に汚れた「万年床の中の万年床」が横たわっていた。普段は早川がそこに寝ているのであろう、奴の長い髪の毛が30〜40本はその布団にしがみついている。

「あとの人は……」

「(あとの人は……?)」

待ち受ける恐怖に、皆無言だった。

「その辺でテキトーに寝て下さい」

「(テキトー!)」

「うちに泊まれるので使ってください」と言われ、お邪魔した俺たちが図々しいのかもしれないが、それでもこれほどヒドいとは、まったく想像がつかなかった。そして当の早川は、ひとりコタツにもぐり込み寝始めた。

俺たちは座る場所もない、文字どおりゴミ溜めのような部屋で途方に暮れた。

「ここで3泊するのか……」
「ってか、絶対にあの布団だけには寝たくない!!」

そしてライブ会場への入り時間になり、俺たちはまた早川CARに詰め込まれ、天神にあるビブレホールへと向かった。この日のライブの様子は割愛したい。俺が伝えたいのはライブの様子ではなく、早川とのエピソードだ。

ライブを終えた俺たちは早川宅に戻る。ライブ後で興奮していることもあり、皆饒舌だった。「よかったらシャワー浴びてください」と早川に促され、「だな! 汗、流そうぜ」と俺は脱衣所で真っ裸になりユニットバスへ足を踏み入れた。

「うっ……」

俺は本当に後悔した。ユニットバスの床一面に早川の長髪が敷き詰められたように散らばり、なぜかはわからないが、それは壁にまで及んでいる。でも汗は流したい。俺はその薄気味悪い長髪の大量の抜け毛を踏まぬよう、踵だけで立ちながらシャワーを浴び、頭を洗った。

シャンプーの泡を落とし終わり、目を開けたとき、俺はその光景に鳥肌が立った。おそらく大量の長髪で詰まった排水口はその役目を果たさず、足首くらいまでのお湯を床に溜めてしまったのだが、そのお湯で床に落ちていた大量の長髪たちが生き物のように俺の足首にまとわりついていた。もうホラーだった。

俺は一心不乱にまとわりついた長髪たちを、最大水量にしたシャワーで吹き飛ばそうとした。しかしそれは逆効果だった。大量の湯を出せば出すほど、排水できないお湯はかさを増し溜まっていく。それにつれてそこら中の長髪たちがウニョウニョと動き出し、俺の足にさらにまとわりついていった。

思い出したくもない髪の毛たちとの格闘を経て、その晩は就寝となった。あの茶色く濁った髪の毛だらけの布団で寝たくない俺たちは、我れ先にとコタツを奪い合い、そこで寝た。しかし俺は眠れない。なんだか息苦しいのだ。

あまりに汚すぎる部屋の汚れで喘息の発作が起きてしまい、気管支が収縮。正常な呼吸が困難となっていた。しばらくは我慢していたが、症状は酷くなるばかり。仕方なく早川を起こして車のキーを借り、奴の車の中で夜を明かすことにした。夜を明かすに車内は狭い。しかしマジで快適だった。あの部屋に比べたら、どんな軒先きでも快適であったに違いない。

1996年1月の福岡初ライブの思い出と言えば『ゴミ屋敷・早川宅に泊まるイベント』これに尽きる。しかし、誤解しないでいただきたいのはこんなにボロクソ言っても俺は早川のことが結構好きなのだ。あんなイカレた奴、その後に日本中をライブしてもそうはいなかったもんな。

二日市ウルフの早川、あいつは貴重な人間だ。

タケムラアキラ

竹村哲●1995年にスカパンクバンドSNAIL RAMPを結成。2000年にリリースしたアルバム『FRESH BRASH OLD MAN』でオリコン1位を獲得するなど、一時代を築く。バンド活動と並行し、2001年からキックボクシングを始め、2014年10月に43歳の年齢でNKBウェルター級チャンピオンに輝く。2015年12月12日には後楽園ホールにて引退試合を行なった。SNAIL RAMPは現在、“ほぼ活動休止”中。