「スタジオグリーンバード終了で思い出す、最高のアシスタント〜SNAIL RAMPの作り方・32」タケムラ アキラ『炎上くらいしてみたい』
スタジオの重く厚い防音扉をグッと押し開けながら、俺は「おはようございます! 今日からお世話になるスネイル……」まで言いかけて、その通常ではない雰囲気に言葉を呑んでしまった。
ミキシング卓の前にエンジニアらしき人がこちらに背を向けて座っていて何やら作業しているが、その背中が明らかにデカい。歩行中にぶつかられたら、明らかにこちらが吹っ飛びそうなガッシリとした身体。その男はヘッドフォンをして作業中らしく、こちらには気づいていない。
「え……あの人が山口州治さん……?」
「写真のイメージとずいぶん違うぞ」
俺が知っている州治さんは細身でメガネをかけた、繊細さも感じるルックスだ。眼の前にいる、背を向けて座っている男が州治さんだとしたら「どんだけ背中中心に筋トレしたんすか!」と全力で突っ込まないと辻褄が合わないくらいTシャツ越しでもわかるほどの筋肉が背中にしっかりとついていた。
混乱している俺の空気を感じたのか、その大男がヘッドフォンをしたままゆっくり振り返った。
俺が「州治さんのイメージとは違うなぁ。でもあの人が州治さんだろ、だってスタジオにいるんだし!」と、ほぼ絶望でありながらも願っていた残り数パーセントの希望に完全にトドメを刺しにきたのだ。
アフリカ系の欧米人だ。
彼は完全な外人さんだった。
あまりの衝撃に「うわぁぁああ!」と声が出そうになったが、その前に彼が挨拶をしてくれた。
「オハヨウゴザイマス。アシスタントノ グレゴリーデス。ヨロシクオネガイシマス」
かなり流暢な日本語だった。
「SNAIL RAMPの竹村です。よろしくお願いします」
そう俺が返すと、彼はぎこちなさゼロの会釈をし、またミキシング卓へと向き直った。アシスタントエンジニアが外国人とか初めての経験で、きちんとコミュニケーションとれるのか?と若干の不安も覚えたが、同時に「アルバムリリースの取材で"えぇ、今回は海外からエンジニアを呼んで録りました”」みたいなウソがつけるなと楽しみになってきた。
っつーかインタビューでエンジニアに触れるなら、まず山口州治さんだろって話しなんですが。
そして始まる俺たちとアシスタント・グレゴリーの日々。今思い返しても「ふふふ」となってしまう彼の話は次回に。