「スタジオグリーンバード終了で思い出す、最高のアシスタント2〜SNAIL RAMPの作り方・33」タケムラ アキラ『炎上くらいしてみたい』
彼の存在を思い出す瞬間といえば、長いレコーディングの最中、ちょっとだけ作業が止まったときに「すみません。コーヒー入れてきます!」と小声で告げ、大きい身体を少しでも小さくしようと折り曲げて小走りでスタジオを出る。そして大慌てで入れたのであろう波々としたコーヒーを「熱っ、熱っ」とちょっとこぼしながら、また慌てて戻ってくる。そんなときくらいであった。
俺が見かねて「グレゴリー、そんな慌てないで大丈夫だよ。飲みものはいつでもゆっくり取りに行って」と言うと、「ア! ダイジョウブデス。スミマセンスミマセン」と、ますます身体を小さくして答える。奥ゆかしいアシスタントだった。
2日、3日するとグレゴリーともすっかり打ち解け、レコーディングの合間には一緒にご飯を食べたりもしていた。そこでの雑談で、フランス国籍をもち仏英日のトライリンガルなこと、日本に憧れて来日し、こちらで音楽の専門学校に入ったことなどを聞いた。会話の端々からグレゴリーの知能指数はかなり高いことが散見され、恐らくだがフランス在住時代も知的水準の高い教育を受けてきたんだろうなと思わされた。履いてるジーンズは相変わらずアレでしたが。
そんなある日、レコーディング最中に食べもの・飲みものを買い出しに行くときがあった。ちょうど俺の作業がなかったので、「俺行ってくるよ! みんな欲しいものを叫んで!」と告げた。
皆が「サンドイッチ!」「甘いもの!」「デザート!」と口々に叫ぶのを聞きながら、「ま、どうせ覚えられないからテキトーに買ってくるんだけどな」と心のなかでニヤニヤする俺。そんななか、奥ゆかしいグレゴリーは当然のようにリクエストはしない。業界的には「アシスタントがリクエストしてんじゃねーよ!」みたいな風潮なのだが、俺はそういうのがキライだし、何よりも俺たちはひとつのチームだ。
「グレゴリーは何がいい?」
俺は訊いた。
「イヤ、ワタシハダイジョウブデス……」
「いいって! 遠慮すんなよ」
「トンデモアリマセン。ダイジョウブデス」
「グレゴリー、いいじゃんか。コーヒーとか?」
グレゴリーが飲むのは常にコーヒーだったので、そう訊く俺。
「イヤ、アノ……」
「ブラック? それともちょっと甘いの? あ! それとも別のがいい? 何でもいいよ」
「ジャア……」
「じゃあ?」
「ピ……」
「ぴ?」
「ピルクルヲオネガイシテモ ヨロシイデショウカ……?」
ピルクルかよー!!! グレゴリー、いっつもいっつもコーヒー飲んでたのは何のカモフラージュだったんだよ。君の摂りたいのはカフェインではなく乳酸菌だったのか。それからというもの、買い出しのたびにグレゴリーには強制的にピルクルが手渡されることとなりました。
そんなグレゴリー、最近はどうしているのかなとググッたら元気にサウンドエンジニアをやっていました! 元気の秘密は、毎日強制的に摂らされた乳酸菌だろうね、絶対。
そんな彼のエンジニアとしてのコラムもあったよ(記事下参照)。その穏やかな人柄が存分に出た文体で、「あぁ、グレゴリー変わってないな」と嬉しくなりました。しかも今更ながら気づいたんだが、「グレゴリー」ではなく「グレゴリ」みたいだね、どうやら。
でもそんなこともきっと「ダイジョウブデスヨ、タケムラサン」と微笑みながら言ってくれるはず。
グレゴリーはそんな人!
◎グレゴリーのブログ
http://suppagepress.tokyo/column/1324