「初のアルバムツアー函館の激マズグルメ~SNAIL RAMPの作り方・37」~タケムラ アキラ『炎上くらいしてみたい』

連載・コラム

[2020/7/13 12:00]

1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのフロントマンであり、キックボクシングで日本チャンピオンにまで上り詰めたタケムラ アキラが書きたいことを超ダラダラ綴っていく新連載!


「もう疲れた。帰りたい」と車内の全員が思っていたに違いないが、まだツアーの初日を終えただけのSNAIL RAMP。前日はまさかの1時間半という「宿泊」でホテルをチェックアウトし、青森に向かうべく札幌から函館に機材車移動。無言の車内で運ばれる俺たちは、マネージャー・テツラーノの運転に全てを委ねていた。

函館までの長い長い道のり、それは片側1車線のやたらとまっすぐな道路であり、少しでも遅い車がいると俺たちもスローダウンせざるを得ない、走りにくい道のりだった。しかし函館~青森のフェリー出港時間に遅れるわけにはいかない。

こちらのペースをダウンさせるような車に追いついてしまうたびに、無言の車内に「・・・チッ!」というテツラーノ(28歳女性)の舌打ちが響きわたり、同時に「グオン!」というエンジン音とともに対向車線にはみ出て乱暴に加速、前走車を追い抜くという「ゆっくり走ろう北海道」という交通標語を根底から覆すだけでは気が済まず、「ゆずり合う 心ふれ合う交差点」という交通標語のサラブレッドをみじん切りにするようなドライブが展開された。

このとき俺は2列目のシートに座っていたのだが、そこから対抗車線にはみ出ていくテツラーノ(28歳女性)の背中を見ながら、「怒気って背中にも現れるんだなぁ」とボンヤリ見ていた。正直、その運転に身の危険も感じはしていたのだが、それよりも上回る疲れが「事故ったら事故ったでいいか」となんとも投げやりな諦観を俺に与えていた。

そんな『テツラーノ、怒りの追い越し(ランボー 怒りの脱出)』を経て、俺たちはようやく函館港に着いた。「ふわ〜、着いた〜!」と口々に言いながら、機材車を下車。あとはフェリーの出港時間を待ちながら、お楽しみの食事をとることに。港にはラーメン屋もあれば回転寿司もある。

「ラーメン! 寿司!!」

北海道初心者の俺たちからしたらそれは憧れの北海道グルメ。石丸は「どちらかなんて選べませんね」と美人の女優と可愛いアイドルの両方から告白されているようなことを言っていたが、俺だってそうだ。もちろん俺たちは躊躇なく二股をかけた。

まずは寿司だ。函館といえばそりゃイカでしょうってことで頬ばったのだが、これがまあひどい。「え、イカってこんな歯ごたえだっけ……」という、なんとも言えない不快な食感。そしてマグロを試してみると、これまた北海道の荒野で50年ほど冷凍保存していたようなカスカス具合で俺たちは意気消沈。「ラーメンいこっか……」とうなだれながら店を出て、ラーメン屋にインした。

しかし店内に漂う「微妙なラーメンだしまっせ〜」感が俺たちに押し寄せる。万が一失敗しても財布が深手を負わないよう、極めてベーシックなラーメンを頼んだところ、これが大リーガー級の規格外! 「こんなチャーシュー初めてだなぁ」と思わず笑ってしまったほど個性的な歯ごたえをもつチャーシューで、「ゴム長靴の底(ソール)を薄ーく削いで、水で薄めた醤油につけて食べるとこんな感じでしょ」と公式コメントを出したところ、「描写が的確ですね」と石丸にホメられたほどの逸品だった。

なお函館、そして北海道の名誉のために言っておくが、現地の食レベルは実際極めて高い。それは後年に再訪した時も確認できているのだが、このときばかりは大ハズレの2店に入ってしまったようで、本当にひどい目にあった。俺ももう50年近く生きてきたしラーメンは大好物なので、気が遠くなるほどの杯数のラーメンを食べてきたが、このチャーシューが「俺が食べたマズいチャーシュー第1位」。ブッチギリの第1位だ。

なお参考記録として記しておくと、「俺が食べたマズいラーメン第1位」は、20年ほど前まで新宿は小滝橋通りにあった『昌弘(?)』みたいな名前の中華料理屋のラーメン。腹が減ってりゃ何でもウマく感じ、キッチリ平らげるはずのハタチそこそこだった俺が、ふたくちみくち食べてゲンナリ、「いや、でも残すのはなんだから完食はしよう」と気を取り直して再び挑みかかっていったのに、「うげぇ〜! やっぱりダメだ〜!」と、その8割を残してしまった俺史上最凶のラーメン。

あれなんだろーなー、「出汁が入ってない味噌汁」を飲まされるようなマズさというか、「味のない茶黒色のぬるま湯」にドロッと固まってダマになってる茹ですぎた麺が叩きつけたように投入されているラーメンと言えば、わかってもらえるだろうか。

とにかくあの味のなさは特筆モノで、ありとあらゆる卓上調味料を片っ端からブッ込んだにも関わらずやはり味がしないし、調味料の味という味を吸い取っていくブラックホールのようなスープはもはや神秘的。そりゃもう奇跡のラーメンだった。

話しがすっかりズレまくったのだが、最終的にはきちんと青森の地についたことを記しておきたい。

タケムラアキラ

竹村哲●1995年にスカパンクバンドSNAIL RAMPを結成。2000年にリリースしたアルバム『FRESH BRASH OLD MAN』でオリコン1位を獲得するなど、一時代を築く。バンド活動と並行し、2001年からキックボクシングを始め、2014年10月に43歳の年齢でNKBウェルター級チャンピオンに輝く。2015年12月12日には後楽園ホールにて引退試合を行なった。SNAIL RAMPは現在、“ほぼ活動休止”中。