「石丸、青森でナンパする~SNAIL RAMPの作り方・38」~タケムラ アキラ『炎上くらいしてみたい』
1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのフロントマンであり、キックボクシングで日本チャンピオンにまで上り詰めたタケムラ アキラが書きたいことを超ダラダラ綴っていく新連載!
俺たちSNAIL RAMPはフェリーに乗り青森についた。確か2回目の青森ライブからは弘前市でのライブがほとんどだったが、青森での初ライブは青森市(ライムライト?)だった。
しかし、ここで俺に不安がよぎる。
「え? ホントに『Mr.GOOD MORNING!』のツアーで青森市行った? 弘前市じゃなかったっけ?」
慌ててCDラックから自分たちのセカンドアルバムを探し出し、CDケース内にツアースケジュールが封入されていないか探した。
「あった!」
やっぱ弘前市じゃーん!! え? じゃあ青森市ライムライトでやったライブはいつなのだ……? てかリリースツアーでもなけりゃ、まったく売れてない当時の俺たちが青森に行けるはずがない。
くっそー、こんなときに石丸が生きてればなぁ(生きてる)。アイツは俺の記憶力のなさをいつだって補完してくれる、そうハードディスクみたいなやつなのだ。アイツさえ生きていれば……(死んでない)。
ジンワリと記憶がよみがえってきたのだが、1997年にリリースしたファーストマキシシングル『FLAT FISH COMES!』のツアーで行ったのが青森市ライムライトだったような気がする。このツアーは当初、9月に東名阪の3ヶ所(もしかしたら神戸もあったかも)のみだったが、そのツアーをブッキングしたのちにジャグラー(マネジメント事務所)と契約。ジャグラーが「もうちょっとツアーしたら?」ということでブッキングしてくれた第2部的なツアーが11月からあったのだ。
この11月ツアーの初日も札幌カウンターアクション(11/4)だったと思うのだが、それまで俺たちは1回も北海道に行ったことがなかった。そして11月頭の東京はといえばまだまだ暖かく、俺は普通に半そで短パン、せいぜい上に軽い羽織があれば十分といった陽気。何も知らぬ俺はそのままの恰好で北海道に上陸。札幌についてみれば小降りとは言えぬ感じで雪が降っており、ガッタガタに震えながら慌てて冬服を買いに走ったのだった。
そしてその翌日が、青森市にあるライムライトというライブハウスだった。手作り感のあるこじんまりとしたライブハウスで、「こ、ここにお客さんがホントに来るんだろうか」と不安でいっぱいだったが、やはり普通に来なかった。たしか7人くらい。しかし「東京のまだ無名のパンクバンドをわざわざ観に来てくれる」だけあって、7~8人しか客がいないライブなのにそれなりに盛り上がった。なんだろう、そこにいるひとりひとりの戦闘値が高いとでも言えばいいのか、まったく寂しさを感じないライブだった。
そしてライブ終了。「打ち上げをやるからよかったら参加してください」と誘ってもらえたので、もちろん参加。聞くと居酒屋などへ行くのではなく、ライブハウスの床に青いビニールシートを敷き、そこでライブハウスオーナーの奥さんが作ってくれたお重を食べながら飲もうよという、あったかい打ち上げ! 全部で10人くらいだったろうか、車座になり打ち上げは始まった。それまで経験したことのない打ち上げスタイルに、俺たちのテンションも上昇、かなり楽しんでいた。
その輪は基本男ばかりだったのだが、ひとりだけ女の子が混じっていた。そんなにしゃべるわけでもなく、どういう関係性でその場にいるのかすらよくわからなかったが、俺たちに興味をもってくれていることは伝わってきた。
場は和やかに進み、何となくひと段落ついたような雰囲気になったとき、石丸が席を立った。トイレに行くものと勝手に思い込んでいたが、本人は席替えをしようと思ったようだ。
「ふう~、お疲れさま」
とそこにいる人に声をかけながら石丸が腰を下ろすのを見て、俺と米田に緊張が走った。石丸が、その場にいるたったひとりの女の子の隣に腰を下ろしたからだ。
「ウソだろ、石丸……」
俺と米田は顔すら見合わせなかったが、同時に同じことを思っていた(翌日確認済)。
その打ち上げでの、みんなの会話はもう俺たちの耳には入らない。俺と米田、視線こそズラしてはいるが「ここで石丸がどんなビートを叩き出すのか」という1点のみに集中していた。
やがて石丸が動いた。女の子の耳元に口を少し近付けている!
「……カウントだ!」
いよいよ石丸のライブが幕を開ける。
「〇◆×▽§ΘΓΩ?」
俺と米田からみて、石丸は車座の向こう側、一番遠い場所に座っている。まわりの人たちも銘々に喋っているので、女の子の耳元に顔を寄せて話す石丸のその言葉など通常聴き取るのも難しいはずなのだが、俺と米田にはハッキリと聞こえてきた。いや、石丸が間違えて俺たちに話しかけているんじゃないかと思うほどの鮮明さで、その言葉が脳に飛び込んできた。
「俺……、」
「どう?」
俺と米田がお互いを見ることはなかったが、心のなかで顔を見合わせた。
「俺、どう?」だと?
そんなことってあるのか? いきなり? 前段階なしにいきなり「俺、どう?」とか法律に引っかからないの?
普通、カウントでいったら「ワン、ツー、スリー、フォー!」で曲じゃん。どんなに短くても「スリー、フォー!」だ。それを石丸は「フォー!」だけで入ったぞ。今や懐かしいHGじゃねぇんだから。いきなり腰振ってんじゃねーよ。慌てんな。
そんな思いを米田とテレパシーでやり取りしてたら女の子が
「コクッ」とうなづくのが見えた。
「いいんかーーーい!!」
もう意味がわからなかったが、もはやどうでもよかった。俺たちとしては石丸の生態、求愛行動とでも呼べばいいのだろうか、それをサファリパーク並みに生で見ることができた、それだけで満足であった。
ちなみにこの女の子、どんな女の子だったか気になっている男性諸君は多いと思うので、一応説明はしておこう。ズバリとても個性的な顔立ちをした人でした。俺の青森の女性イメージは目がぱっちりとした人が多いといったものなのだが、その範疇にはいない、弥生時代あたりから独自の進化を遂げてきた種の子孫って感じの女の子だった。
そしてふたりは青森の夜へ消えていった……ならわかるのだが、その打ち上げがお開きになるまで車座のなかでふたりは談笑し、打ち上げ終了→解散となると、石丸はたったひとりで機材車のなかに乗り込んできて、俺たちと一緒にホテルに帰還した。
何なんだよ、アイツは! なんで「俺、どう?」って訊いたんだよ。なに初対面の人に自分の評価を確認してんだよ。
今思い返しても、まったく謎な石丸の行動であった。