「青森の打ち上げでくっそ盛り上がった翌日の秋田ライブ・後編~SNAIL RAMPの作り方・41」~タケムラ アキラ『炎上くらいしてみたい』
1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのフロントマンであり、キックボクシングで日本チャンピオンにまで上り詰めたタケムラ アキラが書きたいことを超ダラダラ綴っていく新連載!
今晩もライブだというのに声が完全に出なくなっていた俺。効果テキメンの、打ってほしかった注射を打ってもらえなかった(と書くと、なんかの中毒の人みたい)ため、仕方なく「じゃあ先生のいいと思う治療をお願いします」と伝えると吸入器の前へ。
本来ならばシリコン製の柔らかくフィットするマスクが俺の口元を覆い、薬剤が含まれた蒸気が「シュー」というかすかな音とともに咽頭部を回復へと導いてくれるはずだった。しかし、口まわりに当てがったのはガッチガチのガラス製マスクで、それは俺の顔のカーブにまったく合わず、なおかつ霧状ではなく豪雨のような水滴の噴出によって瞬く間に俺の顔と上半身はビッショビショに。昔の拷問「水責め」のような荒治療が終わったとき、俺は気持ちは完全に「もういっそのこと、打ち首にしてください」という、うなだれまくった罪人並みだった。
診察台に戻り喉の内部によくわからない薬を塗られ、「はい、おしまい! あとはよく休んで!」と病院を出され、俺はトボトボとライブハウスまで歩いて戻った。
「とうとう注射は打ってもらえなかった。あんな治療で声が出るはずはない」
「どうしよう、歌うどころか喋ることもできないんじゃ、何とか誤魔化してライブをすることもできない……」
道中の俺の気持ちの暗さといったらマジでMAX。顔は青ざめていたと思うし生気もゼロ。あんなのとすれ違ったら「あいつ大丈夫?」となるに違いないくらい絶望していた。
「メンバーやマネージャーに何て言おう。米田や石丸も呆れるよな、声の出ないボーカルなんて」
「チケットもソールドアウト。秋田のみんなも楽しみに来てくれるだろうに、俺は……」
もう油断するとぽろぽろと涙が出てきそうだし、本当にどうしていいのかわからなかった。このときから2年もすると「ライブなのに声が出ないぞ? やっべー、超おいしいじゃん! ようっし、今日は紙芝居仕立てでライブするぜ!」という無茶苦茶ポジティブな、というかただただ無責任なバンドマンへとなり果てていく俺だが、このときはまだピュアというか「ライブではボーカルは歌わなくてはいけない」という固定観念に満ち満ちていた。
気づいたときにはライブ会場の前まで帰ってきていた。入りたくないなと思ったけれど、もうリハの時間だ。これ以上重ねて迷惑をかけることもできないと、意を決して扉を開け会場内へ。すると、俺を見つけたマネージャーが駆け寄ってきて「お医者さんどうだった? 声は出そう?」とかつてないほど心配した声できいてくれた。マネージャーの肩越しではこれまた心配そうな顔をした米田と石丸がこちらを見ている。
俺は声を出すのが怖かった。質問に答えなければならないが、声は多分出ない。その事実が発覚すれば、後に待つライブで地獄のような時間を過ごさねばならぬのが確定する。
「え、と……」
俺は声を発しようとした。するとなんと! これは本当にびっくりしたのだが、まるで声が出なかった。1ミリもだ。何なら行く前よりも出なくなってる。
「フザけんな、あのヤブ医者め!!」
特大のきりたんぽを手作りしてあのクソ医者を殴りつけたい気持ちでいっぱいになった。かくして俺は「竹村史上初! 声を出さないライブ」に挑むことになった。
会場に登場のSEが鳴り響き、客電の落ちたフロアからは興奮に満ちたキッズの歓声がうねり楽屋まで響いてくる。俺は観念した。達観したと言ってもいい。
「やってやんよ」
声が出ようが出まいが(出てない)俺は全力で歌った(歌えてない)。ぎゅうぎゅうのフロアで暴れているキッズ、暴れているということは俺の声が出ていないことに気づいていないのか?
「しめた!」と思ったが「声が出てても出てなくてもカンケーないんだな」と思うとちょっと寂しい気もした。しかし、「声出てねーじゃん」とシラーッとされるよりは100倍マシだ。マシマシだ。
とは言え、フロア隅で観ている子たちのなかには「あれ? 声聞こえなくない?」と顔に大書きしたような表情の子もいて、そういう子たち向けにはギターソロ中や曲間に「あれ? このマイク、音出てる?」的な顔をしながらマイクをポンポンと叩いてみるという新技を余すことなく見せつけていった。
そしてライブは超盛り上がって終了。アンコールまでやり、汗びしょびしょになるほど温まった身体になった俺の声はそこそこ出るようになっていた。
ライブでアドレナリンが出まくってテンションのぶち上がってる俺は「まー、声は出なかったけどそれは俺の声帯のせいで、俺のせいじゃないもんな」という責任転嫁とポジティブをはき違えるというライフハックを発揮。この晩も上機嫌で打ち上げに向かったのであった。