「絶対に忘れない22年前の会津若松ライブ(後編)~SNAIL RAMPの作り方・43」~タケムラ アキラ『炎上くらいしてみたい』
1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのフロントマンであり、キックボクシングで日本チャンピオンにまで上り詰めたタケムラ アキラが書きたいことを超ダラダラ綴っていく新連載!
会津若松から送られてきた長い手紙とたくさんの署名のノートにケツを叩かれ、SNAIL RAMPはSCHOOL BUS RECORDSの所属バンドONE TRACK MINDらとともに会津若松へ向かった。呼んでくれた子たちが言うには「ライブハウスはないけど、場所は貸してもらえることになっています」とのこと。おそらく地域にある公民館ホール的な場所であろう、俺たちはそう想像しながらかの地へ向かった。
指定されたと思しき場所に車が着くと、「え、と……、呼んでくれた子はどの子なんだろ?」というほどの大勢の人たちに迎えられた。そこに集まっている人たちからは、なんだかもうライブが始まってるんじゃないかというくらいのエネルギーが放たれ、一種の興奮状態に包まれながら俺たちは車から降りた。
「なんかむちゃくちゃ歓迎してもらってる」以外には何も感じない歓迎ぶり。純度100%の歓迎だった。そしてこのライブの主宰でもあろう手紙をくれた女の子と会い、「控室で休みますか?」と訊かれたが、「会場を見ておきたいな」と答えみんなで向かった。
「ここです」と示された場所はでっかい倉庫のような和風の建物だった。
「へー!ここ! なんかカッコイイな。倉庫?」
「ここは……」
「ここは?」
「酒蔵です」
「酒蔵ぁぁああ?!」
俺たちはバカみたいな声を出した。しかしそれは「マジかよ、すげぇな!」という驚き混じりの歓喜だった。ちなみにこの日の会場名は「会津若松末廣酒造」。そしてこの酒蔵、このときも現役で使用中だったのだが、ライブをやるために酒蔵に収められていた酒を全部運び出したんだそう。「何かすげぇ!何かすげぇ!」と俺たちは大興奮。
そのあとに行った控室がある建物も、酒蔵から運び出された酒、酒、酒で埋め尽くされていてまあ圧巻。おまけに「ここにあるものは飲みたいだけ飲んでください」と言われるフリーダム。俺はお酒(アルコール類全般)が1滴も飲めないのだが、このときほど悔しかったことはない。飲めない俺でさえ「これ絶対に美味しいでしょ!」みたいな酒がズラリと並んでいるのだ。飲めるスタッフやONE TRACK MINDのメンバーは「いやー、ここいいな。ちょくちょく来よう」などと軽口を叩きながらめっちゃ飲んでいた。
やがてリハの時間になり、俺たちはまた酒蔵へ移動。酒蔵のなかには鉄パイプで組まれたステージがあり、ポツリポツリと照明が置いてある手作り感満載で、それがまた俺のヤル気を掻き立てた。「よくわからないなかで全力でやってくれたんだなぁ」というのが、めちゃくちゃ伝わってきた。説教くさい観念やポーズとしてのDo it yourselfではない、情熱としてのDo it yourselfを体現したのが彼らだったし、それは今思い返すほどに尊敬の念しか湧いてこない。
ただ音はホントに酷かった。酒蔵のなかってめっちゃ音が響くのな。反響がヤバくて自分が何を演奏しているのかよくわからなくなるほど「音が回る」状態だった。
そして始まる本番。やたらと広い酒蔵にギッシリの人、人、人。空調もない酒蔵でやる9月中旬(9月19日)のライブ。会場に入った瞬間、サウナのような室温とすでに薄い空気に俺たちはたじろいだ。俺のベースはステージに持って上がっただけで表面が水滴でビショビショになった。ライブを始める前から酸欠で息が苦しい。ステージ袖でタバコを吸おうとしているやつのライターも当然に点かない。
「こ、これはヤバいぞ……」
窓は空いてるんだろうかと見ると、酒蔵って窓がほとんどないんだな。かなり上のほうに小さい窓が数個あるだけ。しかもはめ殺しの開かない窓のようだ。
覚悟を決めてライブを始めたが、数曲やって限界に達した。で、ライブの途中ではあるが酒蔵のデカい両開きの引き戸を全開にしてもらい、酸素を取り入れようとした。引き戸が空いた瞬間にライブに来ていたキッズがドドーッと外へ流れ出た。そりゃそうだわ、みんな酸欠なんだもん。で、汗ダクのまま酒蔵の外でへたり込んでいた。
正直、俺も外で酸素を吸いたかったが、ステージを降りるわけにもいかないのでやせ我慢をしてステージ上に残っていた。結局そのあとも、引き戸を全開にして時折「酸素休憩」を入れながらライブをどうにか終えた。
ライブ環境としては1位2位を争うほどの悪条件だったかもしれないが、イベントとしてはホント最高だった。呼んでくれた会津若松のみんなの気持ちは、22年経った今でも「SNAIL RAMPをやってよかったな」と俺に思わせてくれるものだった。
あのときの子たちがこれを読んでくれてたら、本当にお礼を言いたい。ありがとうね。