「佐賀の恐怖(後編)~SNAIL RAMPの作り方」~タケムラ アキラ『炎上くらいしてみたい』

連載・コラム

[2020/11/19 12:00]

1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのフロントマンであり、キックボクシングで日本チャンピオンにまで上り詰めたタケムラ アキラが書きたいことを超ダラダラ綴っていく新連載!


まだインディーバンドとしてツアーを回っていた、1998年当時のSNAIL RAMP。その日は佐賀でのライブだったが街には人影が少なく、目的のライブハウス周辺に近づけば近づくほど人はまばらとなり、やがてひとりも見なくなった。

しかし「大丈夫、夜になればこのライブハウスにキッズが押し寄せて、今夜も盛り上がるはず」と自己催眠のように心の中で何回も唱え、迎えた本番……ここまでが前回のあらすじだ。

俺たちは意を決してステージへと上がった。薄明りのなかでもフロアの様子がわかるライティング。人口比率にそぐわないやたらと広いそのフロアには、マネキンのように突っ立ている10人ちょいの人たちがいた。ライブハウスとしては明らかに広大なそのフロア、そこに10人ちょいの人間。

生まれついてのソーシャルディスタンス。佐賀はこのコロナ禍よりもはるか昔、その22年も前からソーシャルディスタンスを実践していたのだ。

もちろんそれまでにだって、10人にも満たないお客さんを前にしてやったライブだってあった。初めての青森ライブは確か6~7人だ。しかし狭いフロアでそいつら6~7人が全力で暴れるから、なんだったら俺たち的にはクソ盛り上がったライブだった。

それがここ佐賀は、やたらとキレイで広いフロアに10人ちょい。壁際の席に座って本を読んでる人だっていた。

ここから2~3年も経つと俺の性格の悪さに拍車がかかり、もし壁際の席で本を読んでいるやつをライブ中に見つけようもんならよだれを流して喜び、曲を止めてでも、ってか絶対に曲を止めて「おい! みんな、見ろ! あそこにライブ中、本を読んでるやつがいるぞ!」と会場の全員に報告。「ちょっとお前、本もってこっちに来いって!」とそいつにマイクを使って業務連絡。ステージに上げたそいつに「お前、あんな暗いところで本読んでたら目を悪くするぞ。照明さん! 彼のためにピンスポを当てっぱなしにしてあげてください」と照明さんに相談。これがライブの「ほう(報告)、れん(連絡)、そう(相談)」だ。で、ライブ中はそいつにステージ上でずっと本を読ませておく。ピンスポの明かりの中で。そのくらいのことを平気でやったはずだし、むしろ絶対にやりたい。

しかし1998年の俺はまだシャイで、ある意味打たれ弱かったんだろう。ライブ中に本を読むという事実に、完全に打ちのめされた。

当然にノッてくれる人もいない。そりゃそうだ。当のバンドの俺たちがそんなしょげた気持ちでステージに立ってりゃそれはお客さん全員に伝染する。この伝染はソーシャルディスタンスなど軽く飛び越える、強力な感染力を持つのだ。

かくして俺たちSNAIL RAMPはバンド史上最大の惨敗を喫した。

記憶がちょっと曖昧で申し訳ないのだが、実はこの前かこの後にも佐賀ガイルズでライブをやり、惨敗を喫している。2回やって2回惨敗。しかもこの惨敗って、ただの惨敗じゃないんだよなぁ。なんかホントにがっくりくる、エネルギーを根こそぎもっていかれるような敗北感を味わってしまうのが、佐賀でのライブだったのだ。

おそらくだけど、こんな気持ちになってしまうのは行程の問題もあると思うんだ。機材車で長い距離を移動し、数か所でライブをやり、疲労に疲労が溜まった状態での佐賀ライブ(読書)。やっぱ身体が疲れていると、心も折れやすくなるんだろうなぁ。

それ以来……これはさすがに「佐賀の人に悪いな」と思って今まで言ったことはないのだが、正直に打ち明けよう。俺たちは2回にわたるあまりの手痛い惨敗を経て、「佐賀だけは勘弁してくれ」というのがツアーブッキングの掟となった(マジ)。

SNAIL RAMPが全国で唯一行かない街、それは佐賀。佐賀のみなさん(といっても10人ちょい)本当にごめんなさい。

タケムラアキラ

竹村哲●1995年にスカパンクバンドSNAIL RAMPを結成。2000年にリリースしたアルバム『FRESH BRASH OLD MAN』でオリコン1位を獲得するなど、一時代を築く。バンド活動と並行し、2001年からキックボクシングを始め、2014年10月に43歳の年齢でNKBウェルター級チャンピオンに輝く。2015年12月12日には後楽園ホールにて引退試合を行なった。SNAIL RAMPは現在、“ほぼ活動休止”中。