「スネイル、ダウンタウンに会いに行く③~SNAIL RAMPの作り方・52」~タケムラ アキラ『炎上くらいしてみたい』

連載・コラム

[2021/6/25 12:00]

1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのフロントマンであり、キックボクシングで日本チャンピオンにまで上り詰めたタケムラ アキラが書きたいことを超ダラダラ綴っていく新連載!


HEY!×3出演が決まったはいいが、1999年当時は『MIND YOUR STEP』をリリースした直後で、取材だライブだ曲作りだとなにかと忙しかった。ニッポン放送のオールナイトニッポンのレギュラーが始まったのもこの年だった。毎日毎日バタバタと過ごしていたせいか、HEY!×3収録の日はあっという間にやってきた。

収録日ということは渋谷CLUB QUATTROでのワンマンライブの日でもある。おそらく『MIND YOUR STEP』のレコ発的なライブだったのではなかろうか。その日はうちらにしては早朝になる午前8時半だか9時くらいに渋谷駅に集合。ちょっと記憶が曖昧だが、集合場所はハチ公前だった気がする。

それまでの出演者で「今日はHEY!HEY!HEY!の収録だから集合場所は……」と言ってただでさえ人の多い渋谷駅ハチ公前に集合するアーティストっていたのだろうか。そう不思議にもなるが、そもそもそこを指定したのはSNAIL RAMPのマネジメント事務所だった。

芸能系のマネジメントであれば集合場所にももう少し気を遣うのだろうが、SNAIL RAMPが所属していたのは音楽系のマネジメントだったので、いろんな意味で俺たちは放し飼い状態だった。芸能人のように必要以上に大事に扱われることもなく、単純に普通のバンドマンとして扱われていた俺たちは、時にその待遇に不満を感じることもあったが、長い目でみれば変につけあがらずに済んだので結果としてはよかったのだと思う。事務所に大事にされすぎて自分を過大評価し、他者やスタッフさんたちにぞんざいな態度をとっている芸能人やアーティストほど惨めなものはないからね。

そんな事務所の方針もあって、収録で使う楽器も俺たちはそれぞれが手持ちでフジテレビのスタジオに持ち込むことになっていた。俺はベース、石丸はスネア、米田はギターだ。しかし妙に身軽なやつがひとりいた。米田だ。

「米田、ギターは? 誰かが持ってスタジオ入りするの?」と訊くと、米田は「あー、うーん。ギターさ、持ってくるの忘れたんだよね」と、それがまるで通常の会話のように話した。

「えー!!」とおののくスタッフに石丸と俺。

アンプ類はその晩にライブが行われるCLUB QUATTROに搬入するため、番組収録でのアンプはレンタル機材となるが、さすがにギターやベースは自分のものを使おうとなり、俺たちはそれぞれの楽器を手持ちで運ぶことになっていた。ライブ収録なのに自分のギターがないのでは話にならないと、スタッフのひとりが米田家の鍵を預かりダッシュでギターを取りに行った。しかし俺たちは「間に合わなかったら、そのへんにあるギター借りりゃいいでしょ」と呑気なことを言っていた。

ギターが違えばその音色も違うので、通常であればそのへんのギターでOKとはならないが、この日の収録はいわゆる「あて振り」だった。バックの演奏はあらかじめレコーディングしてあるオケを使うので、弾いているフリだけすればいいというやつだ。

いわゆるバンドマンのなかには、このあて振りを「そんなのロック(PUNK)じゃねえ」と嫌がって実際にプレイする人たちもいるが、よほど(マジで)上手い演奏をしないと他の共演者と比べて明らかに見劣りというか聴き劣りするハメになる。結果的に「やっぱりPUNKってショボい」となり、一般層に喰い込んでいくことなんてできなくなる。

事実、過去に観た音楽番組であて振りをせず演奏したバンドがいて、彼らは演奏もキチンとできるバンドだったが、テレビ番組で生演奏をしたそれは共演者と比べると「え……」というレベルに成り下がっていた。ライブであれば伝わるはずの生演奏がテレビではまったくといっていいほど伝わっていなかったのだ。そんな経験もあったから、俺としてはむしろあて振りは歓迎だったのだ。

そもそも「あて振りをしなかったからPUNK」「したからPUNKじゃない」という考え方自体が俺には1ミリもなかったので、まったく抵抗なく受け入れられた。もっともライブ収録自体、限られた短い時間内でやらないといけなかったので、番組側の前提として「基本的にはあて振りで」というオーダーがあったはずだ。「さっきの演奏はあんま良くなかったからもう1回」などとテイクを繰り返されたら、番組側はたまったもんじゃないからね。

ただ歌に関しては生歌でやった。テレビ番組とはいえお客さんを入れての収録なので、歌くらいは生でのライブ感があったほうがそのときのバンドのテンションが伝わりやすい。いやはや、こうやって書いてるとHEY!×3の話しがなかなか終わらないもんだな。

でもSNAIL RAMPのことで訊かれるベスト3に絶対入るのが、このHEY!×3出演の話しなんだよね。もうしばらくのお付き合いを。(つづく)

ラジオ日本にてタケムラアキラ(竹村哲)のラジオ番組がスタート!

ラジオ日本『竹村哲のアキラめないで!』
放送時間:毎週日曜日 25時00分〜25時30分
番組HP:http://www.jorf.co.jp/?topics=akiramenaide

タケムラアキラ

竹村哲●1995年にスカパンクバンドSNAIL RAMPを結成。2000年にリリースしたアルバム『FRESH BRASH OLD MAN』でオリコン1位を獲得するなど、一時代を築く。バンド活動と並行し、2001年からキックボクシングを始め、2014年10月に43歳の年齢でNKBウェルター級チャンピオンに輝く。2015年12月12日には後楽園ホールにて引退試合を行なった。SNAIL RAMPは現在、“ほぼ活動休止”中。