「スネイル、ダウンタウンに会いに行く②~SNAIL RAMPの作り方・51」~タケムラ アキラ『炎上くらいしてみたい』
1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのフロントマンであり、キックボクシングで日本チャンピオンにまで上り詰めたタケムラ アキラが書きたいことを超ダラダラ綴っていく新連載!
不確定ではあるが、HEY!×3に出るかもしれないという、高揚感はあるものの現実感はまったく感じない話をマネージャーから聞かされたSNAIL RAMP。しかも出演できる最後のひと枠を俺たちともう1アーティストが争う形だという。
「そりゃうちがダメだろ」という諦めも感じつつ数日が過ぎるなか、またもやマネージャーから話があった。
「HEY!×3の話なんだけど……収録日がライブとかぶっちゃってるんだ」
万事休す。ライブとかぶってるならもう致し方ない。俺たちはライブバンドであり、テレビ出演を理由にライブをトバすなんてのは言語道断だ。これは諦めのつく理由であり、これが俺たちの運命でもあるのだ。「まぁ落ち着くところに落ち着いたのかな」と妙な納得をしている俺たちに、マネージャーは続けて言った。
「ただ、大変にはなっちゃうんだけど出演できないことはなくて」
「収録は渋谷CLUB QUATTROでライブの日なんだ。まず午前中にHEY!×3の曲撮り、その後QUATTROにすぐ移動してライブのサウンドチェック、それが終わったら再度HEY!×3のスタジオに戻ってオープニングとトーク撮り。終わったら即出してQUATTROでライブ本番。車で移動していると時間が間に合わないから移動はすべて電車。これでもよければHEY!×3の出演は可能」
そういう話だった。確かに大変だ。しかし慌ただしくはあるが絶対に無理なスケジュールではない。つうかこの程度ができないなら「メジャーレーベルと契約する」という判断なんかしない。
「え、別に俺はいいけど?」
「うん、いけるね」
「はい、大丈夫です」
メンバーは全員OKだ。それを聞いてマネージャーのテツラーノが言った。
「じゃあ出よっか」
え? 出よっかってなに勝手にこっち側で決めてんの! 最後に残った出演枠、SNAIL RAMPともう1アーティストのどちらにするか決めるのは番組側じゃん!
「うん、それがスネイルになったんだよ。で、正式にオファーがきた」
マネージャー・テツラーノは割と淡々と話していた。それが大したことでもないかのように。へ?そうなの?だったらそう言ってよ……。
どうやらSNAIL RAMPは本当にHEY!×3に出演することになったらしいが、いざそうなってもどうも実感がない。嬉しいような気もするが、これは喜んでいいのだろうかと躊躇ってしまうような感覚。
出演が決まったそのときは大きな出来事のひとつではあったが、日々のスケジュールに追われる毎日のなかではそのことも単なる予定のひとつとなっていく。そんななかマネージャーから「タケちゃんさ」と連絡があった。
「HEY!×3の収録時は観覧のお客さんを入れるんだけど、番組自体を観に来たお客さんを前にライブする? それともスネイルのお客さんを前にライブする?」
「え! 単に番組を観に来たお客さんって、俺たちのことなんて絶対に知らないじゃん!その人たちを前にライブするのってめっちゃ賭けじゃない? スネイルのお客さんを入れようよ」
「だよねぇ。わかった、じゃあそうするわ」
そしてマネジメント事務所の方で「観覧希望者 募集!」みたいな感じで告知。応募してくれた人たちの前で演奏することが決まった。忙しい日常のなかでも、出演に向けて準備が整っていく。
とは言っても、俺たちとしてはそのステージで全力でライブをするしかない。あわよくばトークでも多少の爪痕は残したいが、それは完全に出たとこ勝負だ。
「HEY!×3に出るのかー」と改めて思ってみたりもしたがやはり実感はなかった。ただ面倒くさいことにはなるだろうな、直感でそう思った。
そしてこの直感はのちに現実となる。(つづく)