「スネイル、ダウンタウンに会いに行く④~SNAIL RAMPの作り方・53」~タケムラ アキラ『炎上くらいしてみたい』
1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのフロントマンであり、キックボクシングで日本チャンピオンにまで上り詰めたタケムラ アキラが書きたいことを超ダラダラ綴っていく新連載!
HEY!×3出演時の話が早くも4回目に突入したこのコラム。記憶力が著しく悪い俺らしく、同番組に出演したのが2回なんだか3回なんだかもよくは覚えていないのだが、この初回出演時についてだけは普通に記憶として残っているのと、トピック自体もちょこちょことあるのでなかなか終わらない。「もうHEY!×3の話しはゴメンだわー」って人にはミュージックステーションの話でもする? 出たことないけど。
前回はアテ振りの話までしたかな。そんないきさつがあり、当日のライブ収録は演奏アテ振り、声は生歌というミックス状態でのスタジオライブだった。観客を入れてのライブ収録は午前中だったために「こんな時間から歌を歌うのか」と俺は若干気が重かった。
バンドスケジュールの通常サイクルとしては、歌うという行為はどんなに早くても14時とか15時あたりからだったので、午前中だとやはり喉が目覚めていない。温まっていない身体でいきなり激しいスポーツをやりだすようなモンでちょっと憂鬱だった。もちろん歌う前には身体を動かしたり通常より人と多く話して喉を温めたりもしたが、この頃はすでに歌いすぎで常に喉にダメージがあるような状態だったので、意図的な喉のアップよりも自然に温まった喉で歌いたかったのが本音だ。
加えて、この日は雨がわりと激しく降っていたので、「つーか1曲だけのスタジオライブに、この雨のなかで人がきてくれるのだろうか」と結構不安だった。しかし、収録の時間はやってくる。「じゃお願いしまーす!」と番組スタッフに促されステージに出てみると、想像していたよりも多くのキッズ(2000年前後のシーンではライブにくる子たちのことをこう呼んでいたが、実際の年齢は10代後半~30歳前後)がいてキラッキラした目でこちらを見つめていた。
彼らのファッションなど見るに、確かにいつもライブにきてくれているようなキッズだった。しかし彼らも彼らで、いつもと勝手の違う場所でのライブに戸惑ってるようにも見えた。俺たちもそうだったと思うが、彼らもちょっと緊張していたのだ。
俺もライブをどう始めていいのかイマイチつかめなかったので、まずは適当に喋り始めた。煽るわけでもなく、本当に世間話みたいなモンだ。そうするうちに最前列にいた子たちが「ねぇ、いつもどおりでいいの?」と訊いてきた。
実は収録前に番組のスタッフ(見たことなかった結構エライ人)から「ダイブなどの行為は控えてください」と言われていた。俺としては「そんなのを当日に言うなよ」と思ったし「だったら呼ぶなよ」なので、その言葉は「(俺が)ダイブなどの行為を控える」と受け取ることにし、ただ「そうですか」とだけ答えておいた。
しかし、最前のキッズからされた質問には答えないといけない。俺はマイクを通さずに「当たり前だろ。いくぞ」とだけ答えた。その瞬間ワッと声があがり、そこにいたキッズのボルテージが上がったのがわかった。
「じゃあいこうぜ、MIND YOUR STEP!」とコールすると、カウントのドンカマに続いてすかさずオケが爆音で流れ出した。もう完全にライブだった。広いスタジオになんとなく突っ立っていたキッズもいきなりスイッチが入り、グワーッと前へ押し寄せ急に人が密集した。
番組側はこのノリを理解していなかったのか、ステージと観客エリアの境にはそれを隔てる鉄製の柵もなく、そこにはADさんと思われる数人がロープを持って脆弱な境界線を作っているだけだった。当然のようにロープで作られた結界は瞬く間に機能しなくなり、それと同時にいつものようにダイブが始まった。
歌いながらも、ギュウギュウの観客の上をゴロゴロ転がりながらステージに近づいてくるキッズを見て俺は、「いいぞ、もっとやれもっとやれ」と内心おかしくて仕方がなかった。スタジオ中のスタッフというスタッフが、「あちゃー」という顔をして右往左往している。
そしてそのうちに最前列にいたキッズがステージに上がりだし、そこから走ってステージからダイブしたりと完全に下北沢SHELTERのようなライブ状態となった。ロープ結界を張っていたスタッフさんたちも始めはそんなキッズを止めようと必死だったが、それも無駄なことだと悟ったようで段々と諦めムードが漂っていった。
結局いつもと変わらないようなライブを終えたSNAIL RAMPとキッズ。
「ありがとー! 気をつけて帰れよ!」と楽器を置いてスタジオを出ようとしたとき、ちょうど入れ替わりに本番前に「ダイブなどの行為は控えてください」と言ってきたエライ人が、「何なんだこれは! やめさせろ!」と激怒しながらスタジオに飛び込んできた。
「うっわー、怒ってる怒ってる」と心のなかでニヤニヤしながら、「やめさせろって、もう終わっちゃってるんですけど?」と思いつつ、その人の横を「なんでこんな感じになったのかは俺たちにもわからないなー」って感を出しながら通り過ぎ、俺たちは控室に戻っていった。
そして次はトークの収録だ。(つづく)
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