「タケムラ、ライブ中にマジギレ(前編)~SNAIL RAMPの作り方・59」~タケムラ アキラ『炎上くらいしてみたい』

連載・コラム

[2022/1/28 12:00]

1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのフロントマンであり、キックボクシングで日本チャンピオンにまで上り詰めたタケムラ アキラが書きたいことを超ダラダラ綴っていく新連載!


2022年、新年早々「締め切り」という世の掟を忘れていてホントすみません。でもあれだね、俺の性格的にはコラムとか書き続けようと思ったらユルいくらいのペースのほうが続くんだろうな。これで「絶対に締め切り厳守! 仕事がある? これだって仕事だろぉぉおお!!」とか言われたら、最初は何とか書くだろうけど、その内に気が滅入っちゃって「俺はなぜ書かされているんだ?」とか自問自答し始めて、「もうやーめんぴ!」っつって2002年秋のSNAIL RAMPみたいに動きを止めちゃったりするのが目に見えている。

でもこのぺースを許してくれている(許してるわけではない。勘違いすんな、俺)『耳マン』編集部さんにはホント感謝しております。いつか見事に炎上して、ムダにPV稼いで恩返しするつもりです。

年頭のご挨拶はこれくらいにして、本題に。

最近はみなさんから「スネイルの〇〇について書いて」のようにリクエストをもらい、それについてコラムを書いたりもしている。以前のコラム『スネイルで聞きたい話ってある?~SNAIL RAMPの作り方・56』(https://33man.jp/article/column27/010955.html)で軽く触れた追手門学院大学での学祭、ここでのライブ中に俺がマジ激怒してしまった事件について。最近になって俺自身が驚くような報告も入ってきたので、当時の経緯も踏まえ書いていきたいと思う。

あれはいつのライブだったのかなぁと調べたら2006年10月29日(日)、同年7月に5枚目のアルバム『TV MONSTER』をリリースしており、この日はムラマサと2マンでの学祭ライブだった。学祭大好きな俺は、この日もリハ後に学祭を堪能して上機嫌。体育館で行われる学祭ライブも、トップバッターのムラマサがキッチリ盛り上げてSNAIL RAMPへとつないでくれた。

俺らは当然にヤル気まんまん、鼻息あらくステージに上がり1曲目からトバしていった。集まったキッズもガンガン暴れだし、ダイバーがうようよと人の頭上を転がりながらステージ前に押し寄せる。

お客さん側から見て最前列とステージの間には柵が設けてあり、柵とステージの間のエリアには“セキュリティ”と呼ばれる人たちがいる。このセキュリティと呼ばれる人たちは、お客さんたちの安全も守りつつライブの進行を妨げるような行為がないようその役目を果たす。

具体的にいえば、人の頭上を転がってくるダイバーも最前列までくると人が途切れ、何もしなければ柵向こうのセキュリティエリアに「ドスン!」と落ちてしまう。そうするとフロアに腰や背中を打ちつけたり、時には頭から落ち脳しんとうを起こして気を失ってしまうこともある。そういう危ない目に遭わせないためにセキュリティは、落ちてくるダイバーたちを受け止め安全にフロアに降ろしてやるのが重要な仕事のひとつでもある。

この日も湧き出るダイバーをセキュリティが捌き始めた。しかしいつもとは様子が違う、受け止めてあげるのではなく「引きずり下ろす」といった様だ。この時点で「は?」と思っていた。ただ荒っぽいセキュリティというのもたまにいるし、それでキッズの安全が侵されたわけではないのでイラッとしつつもそのままライブを続けた。しかし止まぬダイバーにセキュリティたちもヒートアップしたのか、ダイブしてきたキッズを2~3発叩いてから引きずり下ろし始めた。

さすがに「ふざけんな」と怒りを覚えた俺は、ギターソロのタイミングかなんかでステージの先端まで行き、セキュリティたちに「おい! キッズを手荒にすんな!」と声をあげた。ライブ中の爆音のなかでもセキュリティに聞こえるよう、そして何より怒りで自然に怒鳴っていたと思うが、その声に何人かのセキュリティが驚いた顔して振り返った。しかし俺の意思をセキュリティ全員が理解したわけではなく、その後もそういった類の暴力が散見されたので俺は、ステージ袖にいたイベンターに「セキュリティがキッズを殴っている。今すぐやめさせろって」と強い口調で迫った。

イベンターは慌ててセキュリティエリアに降りて行ったが、セキュリティはセキュリティでダイバーに対して頭にきていて結局その蛮行が完全に止むことはなかった。今考えれば曲間のMCでユーモア混じりにでもセキュリティを諫めればよかったんだろうが、あのときの俺は怒りでそんな余裕はなかった。MCでセキュリティたちに何か言ったような気もするが、怒りでそこの記憶は曖昧だ。兎にも角にも、セキュリティたちに対し手を出してしまいそうになる自分を制するのに必死だった。

しかし決定的な瞬間が訪れる。ダイブしてくるキッズを引きずり下ろしたセキュリティが、フロアにうずくまっているキッズに数回蹴りを入れたのが視界に入った。本当に恥ずべきことなのだが、俺は瞬間的に怒りが頂点に達し、持っていたベースでそのセキュリティの頭を叩き割ってやろうとした。

そしてボディを持ってストラップを外しかけた瞬間、「あのセキュリティ、たぶん死ぬことになるんだろうな」という予感が無感情によぎった。それが衝動的な暴力の歯止めになったのかはわからないが、だからといって収まる怒りではない。

俺は怒りの勢いそのままに、ベースをステージ上に叩きつけた。そう、全力で。あのままあいつのもとへ向かってあの全力でフルスイングしてたらと考えると恐ろしいが、結果として砕け散ったのはあいつの頭ではなく、俺のベースだった。

それが、

の顛末だ。

このライブは、あの行儀の悪いセキュリティたちによってあまりいい思い出とはならなかった。「あのときのキッズはイヤな思いをしちゃったろうな」「セキュリティに暴力を振るわれた子もいる反面、事情がわからず”タケムラがなぜか怒ってた”と呆れた子もいたろうな」と、時々思い出しては小さくイラッとしたりもしていた。そう、この正月を迎えるまでは。

あれから16年経った今、まさかの驚くべき連絡が俺に舞い込んできたのだ。(つづく)

タケムラアキラ

竹村哲●1995年にスカパンクバンドSNAIL RAMPを結成。2000年にリリースしたアルバム『FRESH BRASH OLD MAN』でオリコン1位を獲得するなど、一時代を築く。バンド活動と並行し、2001年からキックボクシングを始め、2014年10月に43歳の年齢でNKBウェルター級チャンピオンに輝く。2015年12月12日には後楽園ホールにて引退試合を行なった。SNAIL RAMPは現在、“ほぼ活動休止”中。