「マネージャーはテツラーノ②~SNAIL RAMPの作り方・62」~タケムラ アキラ『炎上くらいしてみたい』
1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのフロントマンであり、キックボクシングで日本チャンピオンにまで上り詰めたタケムラ アキラが書きたいことを超ダラダラ綴っていく新連載!
皆さま、お久しぶりでございます。前回のコラム更新からえらい時が経ってしまいましたが、お元気でしょうか? 「タケムラもやっと死んだか」と喜んでいた方もおられるでしょうが、残念でした。俺は150歳まで生きる予定なので、あと79年は生きますし生き続けます。
さあ、SNAIL RAMPのキーマンでもあった元マネージャー・テツラーノについて書き始めた前回の続きです。初回未読の方はまずこちらからどうぞ。https://33man.jp/article/column27/011587.html
海のものとも山のものともつかなかった当時のSNAIL RAMPに「ついにマネジメント契約の話が!?」「しかもブルーハーツも所属していた、あのジャグラーから!!」「肉とお寿司で接待されての契約だ!」と浮かれに浮かれて行った待ち合わせ場所。
もはや契約よりも「肉、もしくはお寿司」で頭がいっぱいの俺たちを引き連れ、テツラーノは店へと案内してくれた。
「おぉぉ! ここは!!」
案内されたのは、俺らみたいなモンでもその名を一度は耳にしたことがあるあの店だった。
「う!」
「お!」
「た!」
「み!」
THEモンテローザ・グループの居酒屋、その名も魚民。いや、もしかしたら白木屋だったかもしれないが、当時の俺たちや今の俺、そして何より今読んでくれているあなたにとってさえそれが魚民でも白木屋でも変わりはなく、おまけに白木屋が「しろきや」か「しらきや」なのか、議論したあの頃が青春時代だったのだなと今さら振り返るくらいどうでもよい。
「とにかく高いものを食べてみたい」という欲が、本来の「より良い音楽活動をするための話し合い」を軽く凌駕しちゃってた当時のスネイルには、魚民も白木屋も完全に同じ店だった。
しかし席に着くまでに俺たちは猛省した。ここが焼肉屋じゃなかったからどうなんだ、寿司屋じゃなかったからどうだというのだ。より良き環境で音楽活動をするために、この場での話し合いに臨んだのではないか。俺はそれまでの邪な考えを恥じた。
「とにかく腐ったりせず、今の状況でベストを尽くすんだ」
そう、俺たちの長所はこのポジティブさだ。俺は、席に着くや否や声をあげた。
「店員さん! 寿司の盛り合わせを5人前ください」
そう、寿司は寿司屋で食べるなんていう古い価値観に、俺たちはとらわれない。そんなくだらない常識をひっくり返すのがパンクであり、つまらない社会常識はすべてデストロイして俺たちは寿司を喰うのだ。
このときは俺を含めたメンバーふたりとテツラーノだけだったので総勢3人だったが、寿司は5人前にした。3人前の寿司じゃ絶対に足りない、両親ともに公務員という家庭に生まれ育った俺は、用心深く多めに注文した。
そしてもうひとりのメンバーが声をあげた。「あ! 肉系を頼むんだな」、同じバンドのグルーブからそう直感した。
「鳥の唐揚げをふたつ」
あぁ……なんてこった。ここで奴の若さが裏目に出るなんて。そこは鳥からではなく、「網焼き牛ロース3つ」だろうが! と思った瞬間、奴は再度口を開いた。おぉ、そうだよな! まさか鳥からふたつで俺たちのお肉欲はなだめられないぜ。
「鳥の南蛮タルタルソースがけをひとつ」
うぉぉおい! なんでお前はそんなに鳥ばっか喰おうとするんだよっ! 鳥人間コンテストにでも出ようとしてんのか? おぉ?
鶏肉喰っても鳥にはなれないんだよっ! しかもひとつ! あ? お前まさか自分ひとりだけで食べるつもりじゃないだろうな? 一瞬メンバー間に不穏な空気が流れたが、それをかき消すかのように「握り寿司5人前ですー!」と店員さんが待望のお寿司を届けてくれた。
これで俺たちの心は一気に晴れやかになった。「寿司が来た」、それだけで最高の気分になり、テツラーノからの「スネイルは今後どういった活動をしていきたいのか」「目指すところは何なのか」といった、バンドのビジョンに対する質問には気もそぞろ、「うーん、楽しくやっていきたいよね。あ、醤油取ってくれる?」「目指すところ? そりゃいけるトコまで行きたいけどさ。すみません! お寿司、えんがわを追加で!」と、基本食べることに集中してその合間に音楽活動の話を進めていった。
結果、現段階で事務所ときちんと契約するというのではなく、「リハスタ代は事務所が負担」「事務所の機材車が空いているときは使っても良い」という付かず離れずみたいな関係性でお付き合いをしていくこととなった。
しかしSNAIL RAMPのバンド活動としては1歩前進したし、何よりとてもお腹いっぱいになった。
それだけで、俺たちにとっては値千金の夜だった。
(つづく)