「タケムラが怒りだす話」〜タケムラ アキラ(SNAIL RAMP)『炎上くらいしてみたい』
1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのフロントマンであり、キックボクシングで日本チャンピオンにまで上り詰めたタケムラ アキラが書きたいことを超ダラダラ綴っていく新連載!
2022年も、もう終わりじゃんか! 今年も早かったなぁ。早すぎてこのコラムもあんま書かなかったよね。わかってると思うけど、書かなかったのは今年が早かったからで、決して俺が寡筆だからではない。断じてない。そんな早い時の流れに逆らいながら今回も書きますかね。
さて、俺は怒りっぽい。その自覚が十分にあるくらいすぐ怒って悪態をつくし、なんだったらそれが行動を決める指針になることもある。今回はそんな話。
先日、ジムに男性から1本の電話があった。俺は現在、東京都江戸川区の瑞江というところでキックボクシングジム『TOKYO KICK WORKS』を開いていて、そのジムに電話が来たのだ。「あの、すみません。キックボクシングをやらせてもらいたいのですが……」と、それはずいぶんとへりくだった話し方だったので、未経験の方かなと思い「はい! どんな方でも大歓迎ですよ。一緒にキックやりましょう!」と答えた。すると「ありがとうございます。ただ問題がありまして……、私は視覚に障害があるのです。全盲ではないですが、ほとんど見えません。それでもやらせていただけるのでしょうか?」、電話口の男性は申し訳なさそうに俺に伝えた。予想していなかった返答に一瞬言葉が詰まったが、次の瞬間なんとも言えない悲しさに溺れてしまいそうになった。
これは俺の勝手な思い込みかもしれないし、ひどい決めつけかもしれないが、この男性はこれまでに「視覚に重い障害がある」という理由で、自らの希望を拒否されて断念せざるを得なかった経験が複数あったのではなかろうか。だからこそ「やらせてもらいたいのですが……」と、遠慮がちに申し出たのではないか。そう思い始めた瞬間、今度は感情が悲しさから怒りへと変わっていった。この男性にそんな言い方をさせてしまう、この世の中ってなんなんだよ、ふざけんなと。
「これまでジムに視覚に障害を持つ方を受け入れた経験はないのですが、視覚に障害があるからキックボクシングができない・楽しめないとは考えておりません。できうる最大限のサポートをしますので、一度キックボクシングを体験してみるのはどうですか?」と、不条理への怒りを抑え込みながら電話口の向こうへ話しかけた。
そして数日後、その男性はジム『TOKYO KICK WORKS』へとやってきた。手には白杖を持っていて、確かにほとんど見えていないようだ。それでも一緒にストレッチ、シャドー、サンドバッグ、ミットと、体験メニューをひととおりこなしてくれた。普段の指導では、「ここをこうやって」と自分の動きを見せながら理解してもらうこともあるのだが、それでは彼への説明にまるでならない。言葉のみで理解してもらえる動きの指導が、こんなに難しいとは自分でもびっくりしたし、それでもやってくれる彼の熱意に応えたいとも思った。
45分ほどの体験が終わったとき、彼が「やっぱり運動はいいですね。楽しかったし気持ちよかったです」と言ってくれたときは、こちらがなんとも言えぬ満たされた気持ちになった。そして「もしお邪魔でなければジムに入会してもいいでしょうか?」とも言ってくれた。「お邪魔なんてこと言わないでくださいね。世にはいろんな人がいるのが当たり前ですから、ジムにもいろんな人がいるのが自然だと思っています。サポートは当たり前にしますし、幸いうちの会員さんはみんな良い人ばかりなのでみんなも助けてくれるはずです。ぜひキックボクシングを楽しんで下さい」。こちらからはそう伝え、彼はその日ジムの仲間となった。
次回は経営していたラーメン屋で怒った話です。
では皆さん、今年も1年ありがとうございました。「コラム連載、やめちゃったんですか?」としょっちゅう訊かれるくらい更新が遅くなってしまっている、この『炎上くらいしてみたい』ですが、来年もしぶとく書いていきたいと思います。良いお年を!