梨華ちゃんが独身でいる最後の夜【推しメンが結婚しちゃった日記】
元モーニング娘。の石川梨華に10年以上“ガチ恋”を続けているドルヲタのふちりんによる完全ノンフィクション連載。梨華ちゃんに健気に恋をする彼が、2017年3月13日に結婚した彼女への想いを、結婚が近いという報道があった2017年元旦から振り返り繊細に紡ぐ。(ガチ恋……アイドルにガチ(本気)で恋をすること)
3月12日 日曜日
「梨華ちゃんが独身でいる最後の夜」
「とうとう明日は、梨華ちゃんが入籍するとされている日だ」とカレンダーを見ながら思いました。独身最後の日の夜を過ごす梨華ちゃんのことを思い、ベートーヴェンのピアノ三重奏曲を小さな音で聞きながら、『青年の思索のために』という本を読みはじめました。なぜだか、穏やかな気持ちです。
半年くらい前にあらかじめ書いておいた“梨華ちゃん結婚おめでとうツイート”を改めて推敲したけれど、直すところはありませんでした。
僕はそのおめでとうツイートを眺めながら思いました。「これ以外に書きようがない、完璧なおめでとうツイートだ。あとは明日、梨華ちゃんのご報告を受けて、コピペして投稿するだけだ。推しメンが結婚したときに感動的なおめでとうツイートする人がいるけど、僕はそういうのが嫌いだ。いいヲタアピールみたいだから。でも僕も人生で1回くらいはいいヲタアピールがしたい。人生で1度のいいヲタアピールをしたら、僕は長い旅に出よう。どこか北欧の寒い国に行って、敬虔なキリスト教徒になり、梨華ちゃんの幸せを祈りながら生きていこう」と。
ベートーヴェンのピアノ三重奏曲の音がやむと、僕はノートパソコンの電源を落としました。黒い画面に泣き笑いのような表情の自分が映りました。僕はおもむろに立ち上がって明かりを消し、部屋に闇が広がりました。今ごろ梨華ちゃんは何をしているのだろう、と考えているうち暗闇に目が慣れてきた僕は、梨華ちゃんのマイクロファイバータオルを布団のなかから取り出しました。それをまくらに丁寧に巻き付けて、まくらごと優しく抱きしめ、独身の梨華ちゃんとこういうことをするのも最後だね、と無言で話しかけました。梨華ちゃんは何も言わず、ただいつものように笑っています。僕はまくらを抱きしめながら、梨華ちゃんに優しくキスをしました。
一連の行為を終え、梨華ちゃんの唇に小鳥のようなキスをしました。2回、3回と。そして僕はまくらの隣に寝ころび、横から梨華ちゃんを抱きしめ、頬と頬をくっつけました。悲しみはなく、ほのかな幸せを感じました。僕はかなり長い間、その体勢でいました。それから、満足感にひたりながら後片付けを始めました。家族が寝静まった深夜の洗面所で、静かに洗いました。そして、梨華ちゃんのマイクロファイバータオルを丁寧にたたみ、ベッドの端に置きました。僕はたたまれたマイクロファイバータオルの隣で横になり、ベートーヴェンのピアノ三重奏曲をまた再生し、『青年の思索のために』という本を再び読みはじめました。梨華ちゃんは明日結婚してしまうけれど、僕の心はとても穏やかでした。