ANZEN漫才・あらぽんの『アダチニスト〜足立区ストーリーズ〜』第5回:足立区の赤鬼と青鬼(前半)
足立区で生まれ育ったあらぽん(ANZEN漫才)が足立区のリアルをつづっていく新連載!
赤鬼・青鬼と呼ばれた僕と竹井くん
小学生の低学年くらいのときによく遊んでいた竹井くんの話。竹井くんは常に虫や動物を捕まえたがっていて、生きものを探しては捕まえようとしてるハンターみたいな人だった。竹井くんは不思議な人というか感情をあまり出さない人で、あまりにも“無”すぎて少し怖いときもあった。そんな竹井くんとは、別の小学校に共通の友達がいたことで仲良くなった。
竹井くんは夏休みになると田舎へ帰省して大量のカブトムシ&カブトムシの幼虫を取ってくるが、うまく飼育できずに秋口には全滅させてしまったり、家のベランダに鳩が卵を産み、それを孵(かえ)すんだと気合いを入れて懐中電灯の光を何日も当てて孵そうとしたり、生まれたばかりの子猫が団地の下にいたときには、生のアジを丸々1匹買ってきて地面に置いて子猫が食べるのを待ってたりと、わかりやすい“捕まえ上手の育て下手”だった。
そんな竹井くんと遊んでいたある日の夏休み。地元のヨーカ堂でカブトムシが売っているらしいという情報が入り、ふたりで見に行くことになった。入り口にでかでかと「カブトムシ入荷」の文字。奥に入るとカブトムシが入った小さな虫かごが山積みにされていて、値段は1匹300円。見るだけのつもりだったが竹井くんは徐々にテンションがあがっていき、買いたい衝動と戦い始めた。田舎で無限に取れるじゃんと思ったけど店で買うのと取りに行くのではなんか違う気がするし、竹井くんがほしがるので足りないぶんの150円を貸すことになった。
竹井くんは買えるとわかってから1時間くらいかけてなるべく元気なカブトムシ選び、購入。ちょうど時間がお昼になっていたので、満足そうな竹井くんと別れお昼ご飯を食べに帰宅した。
その日の夕方、竹井くんのお母さんから電話がかかってきて呼び出された。竹井くんちのピンポンを押すと、竹井くんのお母さんにいきなり怒られたのだ。
「なんでカブトムシ無理矢理渡すの?」
急に言われてどういうこと?と思ったら、竹井くんがお母さんに促されて喋りだした。
「ぼくはいらないって言ったのに荒木くん(本名)が勝手に買って置いていったから返すよ」
竹井、まじかよ! それより俺の午前中返せよ……! 竹井くんは、田舎でも死ぬほど取れるカブトムシのために人にお金を借りてしまったことがヤバいと思ったらしく、嘘をついたようだった。お母さんは竹井くんが優等生まではいかなくても“良い子”だと思い込んでおり、竹井くんの嘘も信じてしまっていた。
しばらくお互いにだんまりしてたら、竹井くんのお母さんに「お金とカブトムシどっちがいい? 返すよ」と言われ、本心はお金一択だったけど、150円しか払っていないという説明がうまくできなさそうなのでカブトムシをチョイス。竹井くんのカブトムシを持って家に帰ることになった。その日の夜から、カブトムシが夜な夜なカサカサカサカサ動くのでゴキブリと勘違いして眠れなかった。
僕とそんな竹井くんは学校では先生から「赤鬼・青鬼」と呼ばれていた。急な展開だが、小学校の頃の僕はむちゃくちゃ問題児だった。ジャイアン気質で威張るしケンカはするしで、僕といる竹井くんは自然と僕の手下扱いされ、僕には「赤鬼」、竹井くんには「青鬼」というあだ名をつけられた。
担任が強めな先生で悪い奴は公開で裁きましょう主義だったため、今では考えられないが、ある日、授業を変更して『道徳特別授業 荒木くんと竹井くんにやられた嫌がらせ発表会』という会が行われた。その内容は僕と竹井くんが教室の前に立たされ、僕らにやられた嫌がらせ&悪さをみんなが発表していき、黒板に書いていくというもの。ひとりが手を挙げると出るわ出るわで、案の定9:1で僕の嫌がらせで黒板が埋め尽くされた。
書いてある嫌がらせ内容は
Aくん「保育園のころ、ガン消しくれるって言ったのにくれなかった」
Bくん「なにもしてないのにバカって言われた」
Cくん「ドッジボールで顔にボール当てられた」
など、今考えるとそれ嫌がらせ?というのもあったが、嫌な思いをさせてしまっているのは事実だったのでしょうがないなと思いながら会は進んでいき、発表会のクライマックスは「ガン消しあげるって言ったのにあげなくてすみませんでした」とひとりひとりに頭を深く下げて謝罪するという謝罪まわりだった。
竹井くんは僕に比べて苦情は割合1なのに、謝る理由がほんとに可哀想で、
Aくん「竹井くんがカブトムシの幼虫って言ってたのに上級生に蛾の幼虫って言われた」
Bくん「かまちょろ(トカゲ)捕まえられるって言ってたのに捕まえられなかった」
などだった。たぶん謝らなくてもいいことなのに竹井くんもひとりひとりに頭を下げて謝っていた。
そんな赤鬼と青鬼だったが、ふたりの別れは突如訪れることになった。(次回に続く)