ANZEN漫才・あらぽんの『アダチニスト〜足立区ストーリーズ〜』第10回:足立区のドラ○もん(後半)
足立区で生まれ育ったあらぽん(ANZEN漫才)が足立区のリアルをつづっていく新連載!
おじさんに異変、そしてまさかの展開
(前回からの続き)「文句あんのか?」
やばい空気が流れる。でもみやぞんは言う。
「おじさん、ネズミ死んでるの触れないからここ乗せて」
話聞いてる?とひやひやしていると、噴水の池に自分のビーチサンダルを浮かべ、そこにネズミを乗せてもらっていた。たぶんビーチサンダルは左だった気がする。
しばらくビーチサンダルに乗せられてプカプカ浮かぶ死んだ野ネズミをみんなで拝む時間が始まる。なにこれ?なに葬?と思いつつ、なんとなくみんながおじさんの機嫌をとる。
「おじさんすごいね、どうやって捕るの?」
「ほかになに捕まえられる?」
しかし、みやぞん完全に空気を壊す。
「これ、もとから死んでると思うよ。なんかわかる」
ほかのことわかれよ!と思ったとき、おじさんがが爆発する。
「このくそガキ、生きてるネズミなんて捕まえられるはずねーだろ!」
俺たちは素早かった。いつでも行けるように、無意識にみんなスタンバってたかのように、おじさんの雰囲気が変わった瞬間にみんなで一斉に逃げた。
誰かが逃げ際に叫ぶ。
「体操!」
体操する遊具がたくさんある東公園を僕たちは“体操”と呼んでいた。臨時集合場所だ。そこにみんなで避難した。おじさんは僕たちのなかで完全にやべーやつになってしまった。
もう平和はない。そして事件はすぐに起きた。おじさんがお菓子をエサに、女の子を自分の家に連れ込もうとしたのだ。まじでやばいやつだ。噂はすぐに広まった。
それを知った僕たちは、公園にいたおじさんを見つけて「先生に言うよ?」と責めた。するとおじさんは「じゃ、おじさんは反省しなきゃダメだな。メッてしなきゃだめだな」と謎な赤ちゃん言葉になり、気持ちが悪すぎて言葉を失っていると、「おじさんは痛みを感じない、お前らに腹パンされても痛くないから一番力強いやつ、殴れ」と言ってきた。
痛くないならなんの罰でもねーよと思っていたが、一番体が大きい僕ともうひとりが選ばれた。おじさんは「ふたりでダブルパンチでも痛くねーよ、こい!」と言ってきた。なぜそうなったのかルールを完全に見失いながらも、ふたりで呼吸を合わせておじさんのお腹めがけてダブルパンチしてみた。
「いっせーのーせっ!」
気分は悪役を拳で貫くヒーローだ。そしておじさんの腹にダブルパンチが命中した。
「痛てぇーなこのやろう! このくそガキ!」
なんでだよ! 情緒不安定なおじさんに振り回されながらもみんなで逃げていたら、ひとり足りないことに気がついた。
「平ちゃんいない!」
振り替えると、友達の平ちゃんがおじさんの前方でジタバタしていた。なにしてんの?と思って平ちゃんをみたら、ローラースケートの次のブームになったローラーブレードを履いていたのだ。平ちゃんは買ってもらったばかりのローラーブレードが好きで、その頃いつも履いていた。
ローラーブレードは舗装されたアスファルトでは能力を発揮するが、公園の砂地ではまったくの不向きだった。平ちゃんは砂地にローラーブレードのローラーがハマり、前に進まめなくなっていた。どうにか進もうとして冷静になったのか、基本に戻ろうと必死にハの字をかいていた。でもローラーが砂をかんでしまって進まず、平ちゃんはおじさんに捕まってしまった。
おじさんは何もしていない完全に無実な平ちゃんに、おもいっきりげんこつした。公園に平ちゃんの泣き声が響きわたる。殴られた瞬間、砂地に食い込んだローラーブレードが絶妙なバランスで平ちゃんを支え、平ちゃんは立ちながら泣いていた。
おじさんはブツブツとなにかを言いながら、やってしまったことの重大さに気がついたのか自転車に乗ってどこかへ行ってしまった。平ちゃんの頭は漫画みたいなたんこぶになっていた。僕たちはおじさんのげんこつの破壊力でおじさんが大人だと思い知らされた。
その事件をきっかけに大人が動き会議が行われ、僕たちの前におじさんが現れることは1度もなかった。
おじさん、おじさん、と綴ってきたが、おじさんの名前は『つよし』だ。