ANZEN漫才・あらぽんの『アダチニスト〜足立区ストーリーズ〜』第11回:ビー・バップ・小学生(前半)
足立区で生まれ育ったあらぽん(ANZEN漫才)が足立区のリアルをつづっていく新連載!
田口一派との抗争
僕の家はばぁちゃんから弟まで全員同じ小学校出身であり、家族内で学校の先輩・後輩だったりする。母親も同じ学校で長男も同じ学校にしたので、その下の兄弟たちも同じ学校に通わせていた。たぶん「ここまできたらみんな一緒!」というこだわりが出てたんだと思う。
当時住んでいた家の前には別の小学校があり、玄関を開けたら5歩で行ける距離に校庭があった。なので僕が学校に通っていたときはだいぶ無理矢理通わされてる感が強かった。
毎朝、秒で行ける学校に背を向けて学校に向かい、集団登校でお馴染みの登校班までは家から15分、学校まではさらに15分という旅番組のナレーションが聞こえてきそうな道のりを30分かけて登校していた。
朝起きて当時のポンキッキーズの8時8分を聞いてしまうと遅刻。めざましじゃんけんもギリギリ観られない感じで、じゃんけんのフラストレーションは週一のサザエさんで消化。そんな健康的な学校生活を送っていた。
僕の担任になる先生は大変そうだった。避難訓練の一環で集団下校という時間があり、先生たちが同じルートの登校班をまとめて家まで送るのだが、僕の場合は家が遠すぎて必ず途中から先生とマンツーマンになってしまう。人見知り全開な荒木少年はほぼ無言で歩くのだが、ほとんどの先生が「ここで大丈夫そうかな?」と、「はい」一択しか答えられない質問をして途中で帰ってしまう。家庭訪問も必ず最後だった。家にくると先生は必ず「こういうの食べちゃ行けないんだけど、歩いてお腹すいちゃったのでいただきます」とお茶とケーキを食べていた。
大人でも遠いと感じるこの距離を毎朝、違う学校の生徒が通学していく波とは逆に歩いていた。家の近くの小学校は帽子をかぶらなくてはいけないルールがあったので、僕が通るとすぐに違う学校のやつだとわかったようだ。すれ違うたびに「あいつ何小に行くんだよ」「あれ誰?」的なことを陰で言われ、次第に帽子をかぶる小学生に敵対心が宿るようになった。
敵対心は向こうも同じだった。僕のうわさは低学年から徐々に高学年にまで広がったようで、通りすがりの攻防はぼやきレベルからだんだん相手に聞こえるようになり、白熱していった。
ある日、学校の帰り道に5人くらいの集団に呼び止められた。
集団「お前、何小?」
あら「なんで言わなきゃいけないの?」
集団「お前、何年?」
あら「3年」
集団「3年のくせに生意気だな」
あら「無視」
集団「次みたらぶっ飛ばすからな」
あら「勝手にすれば」
こんな感じで攻防が本格化していった。その頃の荒木少年は尖りきっていたので、集団から50メートルくらい離れてから大きな声で「バーカ、帽子だせーんだよバーカ」と叫んで逃げた。もちろん集団は追いかけてきたが、余裕で逃げれる間合いだったのでそのときは言い逃げできた。
その群れのリーダーの名前は『田口』。のちに再会してわかった。田口一派との接触後、ほぼ全員が敵になった。すれ違うたびに言われる言葉も「デーブデーブ、ひゃっかんデーブ」や「超デブっちょ」といった直接的な悪口になり、微妙に略されて「ちょデブっちょ」になったりもした。
ある夏の日、家の前がプールだったので小石を200〜300個プールに投げ入れて遊んでいたら、集団のなかにいたおかっぱのひとりが校庭から走ってきた。おかっぱは「やめろよ、プール入れなくなるだろ」とフェンス越しに言ってきたが、そのとき荒木少年は友達ふたりといたので気が大きくなっていた。
あら「うるせー、毒キノコ」
友達「毒キノコは喋れないから」
といきなりマックスの挑発をすると、おかっぱは仲間を引き連れて戻ってきた。人数的に不利になったので裏口から自分の家に入り、ほとぼりが冷めるまでファミコンで遊びながらやりすごした。このときは家が近かったため簡単に逃げきれた。
向こうのフラストレーションは相当だったと思う。集団の顔もだんだん覚えてきて田口以外は集団でしか威張れないとわかった。1対1で遭遇すると荒木少年から先手必勝パターンでしかけるようになる。あだ名もつけられないような地味な田口一派のひとりが大人の手のひらくらいある『ペロペロキャンディー』を食べながら歩いていた。荒木少年はここぞとばかりに攻める。
あら「お前この前いたよな?」
キャンディボーイ「いないよ」
あら「嘘つくな」
キャンディボーイ「嘘じゃないよ」
と、やはり集団を抜けると気が弱かったので、徐々にペロペロキャンディーに標準をむける。
あら「なんでアメ持ってんの」
キャンディボーイ「買ってもらったの」
あら「一口ちょうだい」
キャンディボーイ「嫌だ」
あら「この前いたのにいないって嘘ついたじゃん」
キャンディボーイ「一口ね」
そして荒木少年はキャンディボーイからペロペロキャンディーを受けとると、横にあった砂利の駐車場に向かっておもいっきりぶん投げた。
あら「気持ちわりんだよ! ばーか!」
キャンディボーイ「ふざけんなよ、田口にいうかんな」
キャンディボーイは号泣した。別の日、今度は昔ながらの家で玄関に行くまでに石畳があって左右に松で門みたいなザ和風な豪邸に住んでいる田口一派のひとりをみつける。石畳にバケツを置いて何かを探していたので聞いてみた。
あら「何してんの?」
豪邸ボーイ「無視」
あら「聞こえてる? 何してんの?」
豪邸ボーイ「どっか行けよ」
バケツを覗き込むと蟻がたくさん入っていた。
あら「蟻捕まえるの手伝うよ」
豪邸ボーイ「邪魔すんな」
あら「うっせーバーカ」
荒木少年はそう言って蟻の入ったバケツをおもいっきり蹴飛ばした。バケツがひっくり返って蟻たちが逃げ出した。
豪邸ボーイ「ふざけんなよせっかく集めたのに」
あら「うっせー気持ちわりんだよ」
荒木少年は集団メンバーを確実にひとりずつ攻めていく。そして別の日の帰り道、すれ違った制服を着た中学生らしき男がついてきてることに気づく。「誰だ?」と思いながら歩いていると、うしろにいたはずの中学生ボーイがいつもの直線の道の前方にいた。「なんで先回り?」と、前方から徐々に近づいてくる中学生ボーイの顔をみて思い出した。
田口一派だ!
普段は私服で小柄だったので、中学生ボーイが中学生だとは気がついていなかった。それと同時に田口は小5、小6くらいにもかかわらず喧嘩の強さとリーダーシップで中学生までも手下にしていたのかと思い知らされた。
しかし、1対1だったので攻めないとと思い、荒木少年は攻めの姿勢に出る。前方から歩いてくる中学生ボーイに向かって無言で中指を立て続けた。その距離は20メートル、15メートルとだんだんと縮まり、荒木少年は無表情で急ぎもせず近づいてくる中学生ボーイに恐怖を抱く。
「こいつ今までと違う」
足は恐怖で止まり距離はどんどん縮まる。だが中指だけは立て続ける。
5メートル、4、3、2、1、0メートル……
中学生ボーイとの距離は顔・中指・顔というサンドウィッチになった。荒木少年はもう足がガクガクで動けない。中学生ボーイは冷静な表情を変えず、持っていた革製のカバンで荒木少年の顔をぶん殴った。
殴られた瞬間視野がバグる。顔全面に痛みが広がり目も開かない。やっと薄目で見たとき、今度は目の前に中学生ボーイの拳があった。1発1発、確実に顔にめがけて数発殴られた。
「こいつまじだ」
と危機感を感じ、とっさに中学生ボーイを突飛ばして落ちていた革製のカバンを近くの畑にぶん投げて走った。中学生ボーイは余裕たっぷりにカバンを拾いに行き、何事もなかったかのように帰っていった。
草むらに隠れた荒木少年の鼻からは血がダラダラと流れていた。水道で顔を洗い、多めに鼻から空気を吸って血を乾かした。小学生低学年にも関わらずランボーばりに止血した。あまりに急な出来事で泣くことすらできなかった。
しかし、そこで気がついた。
「やべーやつらに手出した」
その日から立場は逆転し、毎日、田口一派に追いかけられた。おそらく余裕だった田口一派は「ちょデブっちょ狩り」(仮)みたいな名前をつけて遊んでいたと思う。探されては追いかけられてを繰り返し、田口一派の行動範囲もどんどん広くなっていった。最終的には通っていた学校も特定された。
それから数ヵ月後の放課後、事件が起きた。(次回へ続く)