ANZEN漫才・あらぽんの『アダチニスト〜足立区ストーリーズ〜』第13回:五十くん軍団とたける(前半)
足立区で生まれ育ったあらぽん(ANZEN漫才)が足立区のリアルをつづっていく新連載!
悪名として名前がひとり歩き、そして……
中学校にあがると出会う人も起きる事件もレベルがどんどんあがっていった。
僕が通っていた中学校には3つの小学校の出身者が集まっていた。生徒数が多かったため接点がない人がほとんどだったが、みんな同じ地域で生活していたため噂話が回るのが早かった。
入学してすぐ、自己紹介もしてないのに僕を知っている生徒がたくさんいた。誰かとすれ違うと「あれが荒木だ」と言われたり、下校時に誰かしらの親が見に来て「君が荒木くん?」と確認されたり、なにかと視線を感じることが多かった。なんでだろうと?疑問に思っていたが、そのときは確認できる友達もいないし、仲よくもなっていなかったので、理由はわからなかった。
時は経ち、クラスの友達ともだいぶ会話もできるようになったので、近くの席に座っていた相川くんに聞いてみた。
あら「なんで相川くんが通ってた○○小の人は俺のこと知ってるの?」
相川くん「入学する前に小学校で手紙が配られたよ」
あら「どんな手紙?」
相川くん「○○小から来る荒木っていう子は問題児だから関わらないようにみたいな感じ」
まじかよ! 悪名高きじゃん! 衝撃だった。まったく知りもしないほかの学校のPTA会長が、中学校に入学したら荒木に気をつけてくださいという内容の手紙をわざわざ卒業前に配布していたらしい。だから入学したときには僕の名前が悪名としてひとり歩きしていた。完全アウェーな状態で僕の中学校生活はスタートしたのだ。
悪いやつスタートしたため、入学当初は普通にはみんなと遊べなかった。僕と遊ぶにはみんないろいろと確認作業が必要だったようだ。
「荒木と遊んでいいか親に聞いてみるね」
「荒木を家に入れていいか聞いてみるね」
さすがマイナススタート。さらにめんどくさかったのが、同じ小学校出身でそこそこ人気のあった五十(いそ)くんが、中学にあがるとここぞとばかりに権力をもちだしたこと。五十くんは運動神経もよく顔も悪くないのでみんなから好かれていて、遊びで彼を取り合うくらい人気者だった。
そんな五十君が権力をもち、どんなことでも彼がOKと言ったらOKみたいな風潮になっていった。荒木青年はマイナススタートに加え、五十くんへの過去の行いの悪さもあり、彼のグループからハブられるという仕打ちを受けた。みんなが遊んでいる場所に行くと、一斉にみんながほかの場所に移動する。追いかけると逃げる。でも荒木青年は冷静だった。
「五十くんは人気が出て気が大きくなってるだけだな」
そんなことを思いながら、みんながいなくなった公園にひとりでいると、公園の近くに住んでいた同級生のたけるに声をかけられた。たけるはみんなとは違った。
たける「なんであらぽんからみんな逃げてんの?」
あら「知らない。五十くん、調子こいてるだけじゃない?」
たける「なんかムカつくね。めんどくせーからやっちゃえば?」
あら「めんどくせーからやっちゃうか」
たける「俺もいくよ」
あら「OK」
あっさりと決戦を決断して五十くん軍へのりこむ僕たち。しばらくすると僕から逃げるために普段遊ばない公園にわざわざ集まって10人くらいで鬼ごっこ?みたいな遊びをしている群れを見つけた。
群れA「うわ、またきたよ。場所変えよう」
群れB「まじめんどくせー」
鬼ごっこのせいか心拍数が上がっていてテンション高めに調子こきだす群れたち。荒木青年はそんな群れを無視して五十くんへ一直線。ダルそうに五十くんが自転車にまたがろうとした瞬間、五十くんの自転車もろとも蹴りあげて倒れた彼のマウントボジションをとった。
何が起きたのか状況が把握できない群れ。ただ全員の顔がひきつってる。そして怯える群れたちの前で五十くんに言う。
あら「お前偉くなったな。楽しいか?」
五十くん「すいませんでした。すいません」
場が凍りついて群れたちはひと言もしゃべらない。あっけなく五十くん政権が崩壊した。たけるは興奮が覚めないのか、そのときの状況を細かく僕に教えてくれた。取りあえず落ち着けと言わんばかりに、たけるに駄菓子をおごって大きなドングリの木がある公園のベンチで夕方のチャイムが鳴るまで話した。
たけるはみんなからイジられるタイプの性格だった。通っていた小学校は違かったが、彼はいつもみんなが集まる公園の目の前に住んでいたので、誰でも遊べるフリーマンみたいな存在だった。
みんなから好かれるたける。しかしある日から、たけるとひそひそ話をしている人たちをよく目にするようになった。(後半へ続く)