ANZEN漫才・あらぽんの『アダチニスト〜足立区ストーリーズ〜』第14回:五十くん軍団とたける(後半)
足立区で生まれ育ったあらぽん(ANZEN漫才)が足立区のリアルをつづっていく新連載!
たけるエロ本会
(前回からの続き) あら「なにしてんの?」
たける「絶対言わないで。今日の夕方、公園に来たら教える」
なぜだかわからないが、たけるは俺にはなんでも教えてくれた。その日の夕方、公園に行ってみると草むらからたけるが手招きしてきた。草むらに行くとたけるの足元には大量のエロ本が積まれていた。
たける「絶対言わないで」
あら「これか」
たける「好きなの読んでいいよ」
初めてのエロ本だった。草むらに隠れて読むエロ本に信じられないくらい心臓がバクバクした。
あら「これどうしたの?」
たける「ゴミ捨て場に積んであった」
あら「なるほど」
そして、小さなコミュニティから始まった『たけるエロ本会』はそれぞれの「誰にも言わないでね」方式で話がどんどん広がっていってしまい、どんどん人が増えていった。そのうち家で読みたいと言いだすやつらが現れ、コミュニティが混乱していった。
エロA「え? 持って帰っていいの?」
エロB「俺これ」
エロC「じゃ俺これ」
たける「ふざけんなよ、勝手に決めんなよ。全部俺のだよ」
確かにそうだ。たけるが調達してこないと新刊が更新されないし、みんなも読めない。そして、いままで気がつかなかったことにひとりが気づく。
エロD「つーかさ、たけるいままでのエロ本とかどこに置いてんの?」
たける「それは絶対言わない」
エロE「なんで?」
たける「みんな取るじゃん。だから教えない」
たけるはかたくなに隠し場所を吐かなかった。そのためギラギラの中学生男子たちは隠し場所を見つけるため彼の尾行を始めた。いつものようにたけるが古びたリュックサックにエロ本を入れて草むらに持ってくる。そしていつものように草むらでみんなで読んで夕方のチャイムで帰る。
ここから作戦が始まった。みんなで解散したと思わせ、すぐに集合してたけるの動向を追った。たけるは自転車にまたがって公園を2、3周すると、園内にある建物の裏手にまわった。そして排水パイプをつたって器用に建物の2階のベランダ部分に登った。そこにリュックサックを置き、またパイプをつたって降りてきた。
まじか! 灯台もと暗し!
エロ本の隠し場所はすぐ近くだったのだ。建物から降りてきたたけるは何事もなかったかのように自転車で家に帰っていった。そして、隠し場所を確認できた僕らも今日は解散ということにしてバラバラに帰っていった。しかし、そこはギラギラの中学生男子。荒木青年も含め帰ったはずなのに、それぞれ隠し場所に戻ってきた。みんな今日ほしいのだ。
「誰かが取りにくると思ったから見張ってた」
などの苦しすぎる言い訳を言い合っていると、
「まじないわ」
たけるにバレた。さすが公園前の住人。全員が恥ずかしい感じになった。そんな僕らを見てたけるが言う。
たける「持っていっていいよ」
あら「お前、天使か?」
みんなのテンションが一気にあがった。その日はそれぞれ好きなエロ本をお腹に隠しながら持って帰った。
また別の日、たけるとふたりで公園にいると彼が言う。
「とっておきのは隠し場所は違うんだよ」
興味ない感じでたけるに言う。
あら「そうなんだ、うけんね」
たける「みたい?」
あら「行きましょう!」
決断は早かった。たけるについて行くと、彼はとたんの平屋の民家に入っていく。
あら「ここ誰んち?」
たける「知らない」
そして駐車場とブロック塀の隙間に入っていき、エアコンの室外機の下をさぐるたける。すると紙袋に入れられた厚みのあるものが出てきた。たけるはいいエロ本だけを知らない人の家のエアコンの室外機の下に隠していたのだ。隠し場所が斬新すぎる。絶対わかんねーわ! そしてたけるは紙袋から本を取り出した。
たける「あらぽん好きなのあげるよ」
あら「まじ? 1週間考えさせてくれ」
たける「今日決めてよ」
たけるはそんな感じでいつも俺を気にかけてくれる優しい奴だった。ちなみにそのときに急かされながらも必死で選んだ本は『デラべっぴん』だった。
隠したお腹に直に当たったエロ本がほんのり冷たい中1の秋。そんな青春の1ページでした。