ANZEN漫才・あらぽんの『アダチニスト〜足立区ストーリーズ〜』最終回:大好きな足立区

連載・コラム

[2019/11/5 12:00]

前にこんなことがあった。家から仕事に行くためにタクシーに乗ろうとして道路に出たらちょうどタクシーがきて、それと同じタイミングでおじいちゃんが自転車でこっちに向かってきていた。僕がタクシーを止めようと手をあげたらおじいちゃんも手をあげて「はい、ど~も~、おはようさん」と挨拶してくれた。これは都会では見られない光景ではないだろうか。

みやぞんとお笑いを始めてからはさらに人情味を感じることが多くなった。足立区で大きいフェスがやりたいんですというと「お金はいいから、好きなことやりな」とイベント費を負担してくれたり、さらに(埼玉だったけど)立ち飲み居酒屋で定期的にお笑いライブをやらせてくれたり、大谷田にあるアクリル屋さんが「お笑いやってるならグッズいるんじゃない?」と言って無償でANZEN漫才のアクリルフィギュアを作ってくれたり、西新井大師にある干物屋さんが「売れてないんだからお金いらないからいつでもご飯食べにきな」と行くたびに大量のご飯を食べさせてくれたり、「単独ライブありますと」と路上で告知をしていたら、酔っぱらった女性軍団に「ネタみせろ〜おもしろかったら買うよ〜」と言われ、後日、女性たちが働く会社のガチ朝礼に呼ばれてそこでネタをやったら単独ライブのチケットを50枚買ってくれたりもした。

初めて会った売れてもいない芸人に対して同じ足立区出身という理由だけでいろんな人が応援してくれて、「足立区だからがんばれよ!」と言ってくれた。そんな足立区で育った僕が人生で1番お世話になり人情を学んだ場所がある。それは15年間働かせもらった中華料理・酔仙楼だ。

高校2年のときにバイトの面接に行ってから30才まで働いた場所。ひとり暮らしで家を探していたら「空いてるから上に住めば?」と言ってくれて間取り3DK+屋上付き+Wi-Fi完備の部屋に住まわせてくれ、家賃は衝撃の光熱費込みで4万円という破格の値段だった。

さらにご飯は「食材あるから好きなときに厨房で作って食べていいよ」と言ってくれて、エンドレス野菜炒めと、なにかと玉子とじさせてもらっていた。

僕のバイトでの仕事は出前だった。出前は今の僕になるためにかなり大切な仕事だった。ラーメンを運んでる最中にネタを考えることがほとんどで、運び終わって店に帰る途中で案が浮かんではバイクを停めて領収書のうらにメモったり、みやぞんに電話してネタの案を伝えていた。冬の寒い日にはお店の宴会場を借りてネタ合わせをさせてもらったりもしていた。

実は僕がひょうたん栽培を始めたのも酔仙桜があったからだった。会長が植物好きだったので駐車場を自分で開拓して畑にしていて、バイト中でも「ゆうちゃん、土買ってきて」とお願いされているうちに植物が身近になり興味が湧いてきた。

そんな環境のなかで何か育てようかなと考えてみつけたのがひょうたん栽培。ひょうたん栽培を始めてからは会長も自分の畑で一緒にひょうたんを作ってくれた。

酔仙桜があったからできたことがたくさんあって、お客さんや店の近所の人との人間関係で育ててもらった気がする。何年も結果が出なかったお笑いが少しずつ認められ始め、バイトに出れなくなってしまいバイトを辞めますと相談をしたときのことは今でも覚えてる。

あ「スケジュールが不定期でバイト出れない日が多くなって迷惑かけちゃうので退職します」
社長「辞めないでいいよ。出られるとき、来られるときに戻ってくればいいよ、在籍にしておくから。がんばりな」

優しく背中を押してくれた。大応援が詰まった言葉だった。

こんな経験をさせてくれた足立区は本当に悪い街なんでしょうか? 人それぞれだと思うけど僕には「住めば都」な街で、足立区には感謝しかないわけです。

点滴もってパチンコ打ちにきたり、土手を日サロ代わりにしてたり、朝食が安いために喫茶店に行くから唯一高齢者が使う英語はモーニングだったり、荒川がどんな潮の流れかわからないけどいつも同じところにアダルトビデオが流れついたり、猫よけボトルが焼酎ボトルだったり、野良猫とたぬきも縄張り争いしてたり、自分の名前も書けない子どもが集まる駄菓子屋で10円で花火が買えて先に花火の使い方教えたり、前科があるとなぜか拾ってくれる人がすごくていい就職先に勤められたり、自転車のかごに必ず防犯カバーついてて1チャリに鍵は2個だったり、飼っている犬がほとんどミックスだったり、夜は必ず職務質問されたり、やっぱり足立区はいろいろあります。もし、このコラムを読んで足立区に少しでも興味をもった方がいたら、一度足立区に来て自分の目で確認してみてはいかがでしょうか。

〜アダチニスト第1話より〜
「でも、実際の足立区は、とても住みやすい街だったりする。実は人情深く、下町情緒あふれる街。良くも悪くも簡単にいうといろんな意味で独特な街なのだ」

第1話でこう書きましたが、たぶん『得特な街』なんじゃないかなと思います。

最初にも言いましたが今回で『アダチニスト』最終回でございます。今まで『アダチニスト』を読んでくれたみなさまありがとうございました。このコラムを書いてみて改めて足立区のことを考えたり、思い出させてくれた素敵な時間でした。

ちなみに僕は今、足立区を出て港区に住んでいる。

じぃちゃん、ばぁちゃんが聞いていた『わがまち足立』。今僕は『足立区のうた』を歌っている

あらぽん

1985年10月13日生まれ、東京都・足立区出身。幼馴染のみやぞんと2009年11月にANZEN漫才を結成。みやぞんの特技であるギター、そしてあらぽんのラップを組み合わせた音ネタで活動するようになり、『足立区の歌』などのネタで注目を集める。『とんねるずのみなさんのおかげでした』『世界の果てまでイッテQ!』などでみやぞんの激烈天然キャラが爆発して話題となり、今や大注目コンビのひとつとなっている。