「声の衰え」も味わいなのよ!〜アロム奈美江『永遠ていう安室奈美恵なんて知らなかったよね。』第2回

連載・コラム

[2017/12/16 00:00]

安室奈美恵に命を捧げる女装ライター・アロム奈美江が、引退する安室ちゃんへの愛をつづっていく新連載!


変化してしまった部分さえも楽しんで

師走は新宿二丁目でもパーティーが増えるので、私みたいな底辺の女装もお呼ばれする機会が増えて大忙し。先日は、あるゲイバー主催のクリスマスパーティーに出演していたのだけど、そのバーのママも安室ちゃん大好きなのでDJタイムやショータイムも安室ちゃん楽曲多めでお送りしていたわ。

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私はショータイムで『RESPECT the POWER OF LOVE』を口パクで歌いながら、お客様にゴムパッチンを食らわせるという持ちネタを披露。そこで、沖縄在住の安室専門女装のアブラマミレさん(安室奈美恵のイントネーションで呼ぶ)と共演できて感無量だったわ!

コントコンビ・ゆーとぴあさんにインスパイアされたゴムパッチンSHOW。曲の世界観は一切無視です

新宿二丁目のクラブパーティーに登場するドラァグクイーンのショーケースは、基本的にリップシンクと呼ばれる口パクで、歌をはじめ映画やドラマのセリフなどの音源を誇張して見せたり、まったく違った解釈で演じて見せるのが伝統芸みたいになっているの。

だから、同じ安室ちゃんの歌を題材にしていても、私はシモネタやコテコテのお笑い芸に走り、アブラマミレさんはその巨体で安室ちゃんのダンス振りを忠実に踊っていくという、まったくベクトルの違うショーなのよ。愛にもいろんな形があり、人それぞれにその愛の表現が違うのと同じで、女装による安室愛の表現方法も様々ってわけ!(無理くり綺麗に説明してみた)

同郷(暑いの苦手だけど、私も一応沖縄育ち!)のアブラマミレさんと揃って安室コス

さて、そんな女装三昧で忙しいなかでも、大ヒット中の安室ちゃん25周年記念オールタイムベストアルバム『Finally』はもちろんいまだにヘビロテ中よ! SUPER MONKEY’S時代のデビュー曲『ミスターU.S.A』から最新シングル曲や新曲もたくさん収録っていう贅沢なアルバムで、オリコンのヒットチャートでも数々の記録を更新しているってことは、散々ニュースになっているので読者のみなさんもご承知のうえでしょう。

でもそんななかで、ちらほら聞こえてくるのは、歌い直された過去の楽曲に対して、「声が衰えて高音がいまいち」「昔のほうが良かった」などといった残念がるご意見、ご感想。

そのような人たちの気持ちもわからないでもないけど、私はその意見に対して「着眼点や解釈を変えてみて!」と強く言いたい!

事務所移籍前の楽曲すべてを歌い直しているあたり、権利問題が裏で大きく影響していそうなのはとりあえず置いておくとして……このアルバムは、25周年を迎えた安室ちゃんとともに過去の軌跡を辿っていく作品なの!

だから25年前よりも野太くてハスキーさを帯びた声で歌っていても、それは安室ちゃんの25年におよぶアーティスト活動ストーリーの証明であり、趣なのだ。25年前から何も変わらない部分を素晴らしいと賞賛することは簡単だけど、その一方で変化してしまった部分を味わい尽くして楽しんでしまえるのも、ずっと安室ちゃんと同じ時代を生きてきた者たちだからこそできることだと思う。そう見方を変えて考えると、実にお楽しみてんこ盛りのアルバムなのよ!

アルバムのなかでも、私個人としては思春期を小室サウンドで過ごした身なので、やはり小室哲哉プロデュース時代の楽曲には思い入れが強い。

歌詞の意味もわからないまま、自分の部屋にひとりきり、膝を抱えて1年以上毎日リピートで聴き続けた『Body Feels EXIT』。

シーブリーズのCMソングだったから、自らもシーブリーズをしばらく愛用していたので、当時のあのツンとした香りが蘇ってくる『You’re my sunshine』。

雑誌のインタビューで、「タイトルとサビに使われている”a walk in the park”は、安室さんにとってどんな意味をもっていますか?」という質問に「ただの音としてしか捉えていません」と、媚びた返答を一切しない安室ちゃんにキュンとした『a walk in the park』。

世界各国の首脳が集う沖縄サミットで、日本代表歌手として歌唱した際に、いつもよりも「NEVER」のVの発音に気を使っていることがうかがえた『NEVER END』。

そして、数々の思い出があるだけに、長年願い続けてきた小室さんとの再タッグがついに叶った新曲『How do you feel now?』は、安室ちゃんからの最高のプレゼントだったわ!

では、大事なことなので、最後にもう一度書きますね。『Finally』は、引退を決めた現在の安室ちゃんと共に過去の軌跡を辿っていく作品です……。How do you feel now?

アロム奈美江

ゲイをテーマにした電子書籍ライター、ゲイ雑誌『Badi』編集者を経て、2009年にドラァグクイーンデビュー。プライベートでは、30歳から女性ホルモン投与を始め、ゲイからトランスジェンダーの領域へ転向。現在は、流しの女装パフォーマー、ホステス、MC、イベントオーガナイザーとして節操なく小銭を稼いでいる。