視覚から聴覚へ流れるアートの旅/松本孝弘『enigma』 平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載

連載・コラム

[2018/9/18 12:00]

音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。


第8回:視覚から聴覚へ流れるアートの旅 松本孝弘『enigma』


第8回にご紹介する作品はこちら。

<耳マンのそのほかの記事>

松本孝弘『enigma』(2016年)

言わずと知れたB'zのギタリスト、松本孝弘のソロアルバム。全編ギターインスト。僕がこの人を好きなのは、ロックという欧米で生まれた文化のなかで生きながらも欧米人へのコンプレックスからモノマネに走るのではなく、日本人であることに誇りを持ち日本人ならではの表現を追求しているところ。同作のギタープレイもとにかくすごい。ほぼバラードで構成され一音一音丁寧に情感を込めて弾くスタイル。これはもはや演歌だ。世界中のどんなギタリストにも真似できない。彼こそ日本人ギタリストの理想形だと思う。

しかも毎回ソロアルバムのジャケットのセンスもやたらといい。B'zのときは正直どうしたことかと思うジャケットもあったりするのだが、なぜかソロになるとやたらセンスが良くなる。そうなるとどうしたことかの原因は稲………………稲城長沼駅では僕は降りたことはないがそういう駅があるのは知っている。

同作のタイトル『enigma』とは調べてみると「謎」や「不可解なもの」といった意味があるようだ。そのタイトルが示すとおり、ジャケットもどこかシュールで一瞬こちらの目がおかしくなってしまったのかと錯覚するような不思議なデザインとなっている。まるでシュールレアリスムの巨匠、サルバドール・ダリの絵画のようでもある。しかしながら見る者の意識はぐっとジャケットの世界に引き込まれ、ロックを感じるタトゥーと炎、その反面知性を感じる方位磁石と砂漠という独特のモチーフの組み合わせに否が応にも内容が気になってきてしまうのだ。そうしてまずジャケットでこちらの心をつかみ、そこから一歩音楽の世界に足を踏み入れればその先には美しい幻想の世界が広がっている。視覚から聴覚へ流れるようなアートの旅。ギターインストアルバムの歴史に残すべき名盤だ。

まったく、ギターとは本当に奥が深い。enigmaな楽器である。

まったく、僕は本当に腕が細い。enigmaな体型である。

平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)

ひらい“ふぁらお”ひかる●1984年3月21日生まれ、神奈川県出身。2008年に新道竜巳とのお笑いコンビ“馬鹿よ貴方は”を結成。数々のテレビ/ラジオ番組に出演するほか、『THEMANZAI2014』『M-1グランプリ2015』の決勝進出で大きな注目を集める。個人では俳優やナレーターとしても活躍。音楽・映画観賞や古代エジプト、恐竜やサンリオなど幅広い趣味を持つ。