安売りされてるのはジャケットのせいだ!/TNT『リアライズド・ファンタジーズ』 平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第21回(番外編):安売りされてるのはジャケットのせいだ!/TNT『リアライズド・ファンタジーズ』
ステキなジャケットばかりを紹介しているこの崇高な連載『音楽“ジャケット”美術館』に月に一度出現するといわれるヒドすぎるジャケットを紹介する悪魔のコーナーが今回もやってまいりました。今回は北欧、森と湖の国ノルウェーからのエントリー。
TNT『リアライズド・ファンタジーズ』(1992年)
TNTは1980年代後半、北欧の澄んだ空気とポップなメロディを融合させた音楽性で絶賛を浴びたハードロックバンドである。特に4作目の『インテュイション』(1989年)はそんな彼らの個性が最大限に発揮され、さらに奥行きのある音質も手伝いメロディアスハードロックの歴史的名盤として外せない一枚となっている。
そんな彼らが、『インテュイション』でみせてくれた北欧の美しい景色をばっさりと切り捨て、思いっきりアメリカ市場を狙ってグルーヴィなロックンロールスタイルに舵を切って生まれたのがこの『リアライズド・ファンタジーズ』である(どっかで一度はアメリカのサウンドに寄せて迷走する、これヨーロッパのバンドあるある)。
ただこのアルバム、音楽のみで評価するなら素晴らしい出来栄えで、1980年代の華やかなLAメタル然としたサウンドだが、そもそもボーカルのトニー・ハーネルはアメリカ出身というのもあり、彼の耳をつんざくようなハイトーンボイスがこのアルバムのサウンドに見事にマッチしている。なかでも『ライオンハート』はハードロック界でも指折りの名バラードだと思う。個人的には『インテュイション』よりも好きなアルバムだったりする。
だがジャケットだけは許せねえ!! なんだこの1980年代のディスコミュージックみたいな雰囲気は。マドンナか! 雑誌で見たスーパーモデルが目の前にってか! そうか!よかったな! それがどうした!! それが幻想の実現『リアライズド・ファンタジーズ』ってか!やかましいわ! 1990年代に入って2年も経ってるんだぞ! もう1980年代じゃねえんだぞ! というかこのあいだブックオフで100円で売られてたぞこれ! ジャケットのせいだ!
まあ確かに一目見ただけでアメリカに寄せたというのはわかりやすいし、そういう意味では親切ではあると思うが(『インテュイション』とのギャップがすごい)、もう少しなんとかならなかったものか。これならまだ裏表紙のアメリカ(?)の自然のなかで撮ったメンバー4人の写真を表紙に持ってきたほうがよかったと思う。
まあ知らない人はこのジャケットで購買意欲は湧かないでしょうが、少なくとも『ライオンハート』1曲のために買っても損はしないのでよかったら買ってあげてね。ブックオフで100円で売ってるから。