メタルとはミスマッチなデザインのようでいて……/アンセム『ジプシー・ウェイズ』 平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載

連載・コラム

[2019/1/22 12:00]

音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。


第25回:メタルとはミスマッチなデザインのようでいて……/アンセム『ジプシー・ウェイズ』


今回ご紹介するのはこちら。

<耳マンのそのほかの記事>

アンセム『ジプシー・ウェイズ』(1988年)

日本人による日本製のヘヴィメタルを総称して“ジャパメタ”と呼ぶ。最近はあまり聞かなくなった言葉のように思うので、若い人にとってはほとんど馴染みがない言葉に聞こえるかもしれない。別に現代の日本においてもヘヴィメタルはさまざまな形で存在しているので、それらをジャパメタと呼んでもいいとは思うのだが、何となく“ジャパメタ”という言葉の印象としては、ヘヴィメタル全盛期の1980年代に活躍していたバンドたちを象徴しているように思える(頭の硬いメタルファンはヘヴィメタルを省略して「ヘビメタ」と呼ばれることを嫌うが、「ジャパメタ」という言葉はわりとメタルファンにも使われているというFUSHIGI)。

そしてこれは個人的な印象かもしれないが、数いる日本のメタルバンドのなかでも“ジャパメタ”という言葉を最も象徴している存在がアンセムのような気がする。なぜかといわれると別に根拠も何もない「なんとなく」程度のうっすい印象でしかないのだが、正統派のメタルサウンドに熱苦しい日本語の歌詞を乗せてハスキーな声でシャウトするイメージが、いかにも“ジャパメタ”!といった印象を受けるのだ。

そういえば初めてアンセムのアルバムを聴いたとき(セカンドアルバム『タイトロープ』)、それまで日本語詞の音楽といえばほぼJ-POPの柔らかい口調のものを聴いてきたため、「~だぜ!」という男臭い口調の歌詞にちょっと抵抗感があったのを覚えている。しかしそのサウンドは非常にかっこよく、技術的にも海外のメタルバンドなんかにもまったくひけをとらないハイレベルな正統派ヘヴィメタルだったので、アンセムをきっかけに僕は日本のメタルのレベルの高さを思い知らされたのだ。思い知らされたぜ!

『ジプシー・ウェイズ』は彼らの4枚目のアルバムだぜ! アンセムといえばボーカルは驚異のシャウター、坂本英三というイメージだったが、このアルバムの前に彼はバンドを脱退し、後任として入ったのが森川之雄だぜ! ボーカルが変わればバンドのサウンドイメージも変わってしまうのが常で、事実これまでよりもよりハードロック的なアプローチにはなってはいるが、気になるほどの違和感はないぜ! 何よりアンセムのサウンドと森川のハスキーな声の相性が抜群で、交代うんぬんなどの問題をかき消す充実感にあふれた名盤に仕上がっているぜ!

そしてジャケットのセンスがまたいいぜ! 『ジプシー・ウェイズ』というタイトルどおり、エスニックでスピリチュアルな空気漂うジャケットだぜ! 最初見たときサンタナのアルバムかと思ったぜ! つまりメタルサウンドとは少々ミスマッチなジャケットなので、アンセムを知らない人がこの美しいジャケットに惹かれ厳かな民族音楽のようなものを期待して買ったとしたら、正直はずれを引いたと思ってしまうかも知れないぜ。それはとても悲しいことだぜ……。

しかしよく見てほしいぜ! このドキッとするほど美しいジャケットのなか、明らかに浮いたデザインのバンドロゴを。こんなツヤツヤした金属製のとんがったバンドロゴ、メタルバンド以外ありえないぜ! 「これはヘヴィメタルバンドです」という注意書きがしてあるようなものだぜ! そういう意味ではこのバンドロゴさえあればどんな雰囲気のジャケットでも詐欺にはならないぜ! それひとつで自分たちの個性をしっかり伝えきっている見事なバンドロゴだぜ!

この文章の書き方しんどいぜ! だからもう終わるぜ!

平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)

ひらい“ふぁらお”ひかる●1984年3月21日生まれ、神奈川県出身。2008年に新道竜巳とのお笑いコンビ“馬鹿よ貴方は”を結成。数々のテレビ/ラジオ番組に出演するほか、『THEMANZAI2014』『M-1グランプリ2015』の決勝進出で大きな注目を集める。個人では俳優やナレーターとしても活躍。音楽・映画観賞や古代エジプト、恐竜やサンリオなど幅広い趣味を持つ。