壮大な物語を想像させる、ワクワクするジャケット/カンサス『暗黒への曳航』 平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第27回:大な物語を想像させる、ワクワクするジャケット
今回ご紹介するのはこちら。
カンサス『暗黒への曳航』(1977年)
ロックという音楽が時代とともにどんどん進化、多様化していくなかで、1960年代後半にロックのアートとしての側面を徹底的に追求した結果たどり着いた答えこそがプログレッシヴロック(別名アートロック)なるジャンルである。
ロック本来のシンプルさやロックの父であるブルースの影響からはかけ離れた、高度なテクニック、複雑な構成、文学的な世界観といったインテリジェンスなロックとして1970年代に最盛を極めたプログレ。そしてその特徴ゆえ「ロックとはシンプルに若者の情熱を吐き出すものだ」という考えのパンクキッズなどから忌み嫌われているジャンルでもある。ちなみにプログレの代表的なバンドといえば絶対に外せない存在がいる。ちょっと上にスクロールしてみてほしい。この連載そのもののジャケットとも言えるタイトルデザインのなかにいくつか並んでいるジャケットのうちの右から2番目。インパクト大の強烈な顔面ドアップのジャケット。これこそプログレ界を代表する超大物『シャイニング』のジャック・ニコルソンである。(編注:みなさん、キング・クリムゾンの超名盤『クリムゾン・キングの宮殿』ですよ! ボケですよこれは!)
ほかにもピンク・フロイドやイエスといった大物バンドがプログレ界には存在するが、実際プログレとは難解で理解不能なものも多い。しかし今回紹介するアメリカはカンサス出身のバンド、その名もカンサスは、プログレバンドとしてはかなりわかりやすい部類に入るバンドで、しかも彼らの代表作でもある『暗黒への曳航』はプログレ特有の長尺のインストパートなどもなく、コンパクトにまとめられたキャッチーな楽曲が並ぶ、プログレ入門者にも優しい名盤である。
そしてこのジャケットの世界観。プログレのバンドはこういったファンタジックな世界観を表現しているバンドも多く、アルバムジャケットも美麗なものが多いのだが、カンサスもそのひとつ。イマジネーションを駆り立てられるジャケットとそれに見合った奥深い音世界。それでいてアメリカのバンドらしいカラッとした爽快感すらも感じさせるサウンドがカンサスならではといったところ。それゆえか、『暗黒への曳航』というタイトルとジャケットの絶望的な状況にも関わらず、各楽曲にはどこか希望すら感じるポジティブなエネルギーが宿っているように思える。
ちなみにこのジャケット、一般的なページをめくっていく本の形式ではなく、このように展開できる。
これがまた何と言うか、壮大な物語を想像させる、ワクワクするジャケットである。男子のみなさん、内に潜む冒険心が疼いてきませんか?
ストレートなロックもいいけどアートなロックもいい。対極にあるものというのはお互い対立しているようで結局は引き立てあっているのだ。
ではまた来週。
おっと間違えた。てへ。