バンドの個性を一枚の写真で表現しきった傑作/ザ・バンド『南十字星』 平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第28回:バンドの個性を一枚の写真で表現しきった傑作
今回ご紹介するのはこちら。
ザ・バンド『南十字星』(1975年)
ザ・バンドのロック界における立ち位置というのは、正直僕の目から見たらうらやましいことこの上ない。商業的にもそれなりに成功を収め、そのわりに渋い職人気質ゆえミュージシャンズミュージシャンとして同業者からも尊敬を集めている。お笑いでいうところのナイツさんあたりに近い立ち位置を確立している気がする。
もちろん僕は彼らが活躍していた1960年代から1970年代をリアルタイムで体験しているわけではないので、僕の知りえない苦悩や不満は彼らにもいろいろあったのだろうとは思うが、彼らのような評価のされ方が芸能の世界では最も理想的と感じる人は僕以外にも多いと思う。
ヤホーで彼らのことを調べると、ジャンルでいえばサザン・ロック(アメリカ南部の土臭い空気を表現しているロック)に括られることが多いことがわかるが、実はメンバーのほとんどがカナダ出身。実際他のサザン・ロックと呼ばれるバンドたちとよく聴き比べてみるとわかるのだが、彼らの音楽はオールマン・ブラザーズ・バンドやレーナード・スキナードあたりと比べると、より自然に近いというか、民謡的なのである。それゆえどんなに曲調が変わっても彼らの音楽には常に背後にカナダの雄大な山々の景色が見え隠れする。そして「古いロックバンドのメンバーのなかにひとりはファラオさんみたいな奴存在する説」を立証してくれているバンドでもある。
『南十字星』は彼らが1975年に発表した作品。『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』(1968年)や『ザ・バンド』(1969年)と並ぶ傑作と評価されているアルバムだが、このアルバムの特徴はこれまでよりもじっくりとスタジオで吟味しオーバーダビングも重ねて作り上げられた「完成度の高い」アルバムであるということ。ただそれが彼ら特有の大自然の息づかいを感じさせてくれるような生々しさを後退させているように思えるので、個人的にはマイナスポイントなのだが、楽曲そのものの素晴らしさは全く申し分ない。
そしてこのジャケット。バンドの個性を一枚の写真で見事に表現しきっている。静かで、それでいて温もりがあり、自然の息吹をも感じさせてくれる素晴らしいジャケットだ。ジャン・フランソワ・ミレーの『晩鐘』に通じる厳かな空気感がある。
しかしこのときすでにバンド内の人間関係はズタズタで、間もなくしてバンドは解散を迎えることとなる。以前紹介したABBAのときもそうだったが、ザ・バンドもラストアルバムではないにせよ、解散間近に最も静かなジャケットのアルバムを出したことになる。
ロック史にしっかりと名を残すことに成功した渋い職人集団、ザ・バンド。僕がお笑い界で今後彼らのような評価のされ方をするのは多分難しいが、ザ・バンドには僕みたいな顔のメンバーがいる。つまり僕がロック史に名を残したようなものである。というわけで今の若い人にもぜひ僕が残した名盤『南十字星』を聴いてみてほしい。