ジャケットのセンスはフェア・ウォーニングよりも上だ!〜ドリームタイド『ヒア・カムズ・ザ・フラッド』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第31回:ジャケットのセンスはフェア・ウォーニングよりも上だ!
今回ご紹介するのはこちら。
ドリームタイド『ヒア・カムズ・ザ・フラッド』(2001年)
ドリームタイド。このバンドを聴いたことがある人はおそらくかなりのハードロックマニアだろう。少し前にこの連載の番外編であるヒドいジャケットを紹介するコーナーで取り上げたフェア・ウォーニング。ガチャピンの親戚と言われるスカイギターの使い手、ヘルゲ・エンゲルケを擁し(プレデターにも似てるぞ!)、美しいメロディを全面にフィーチャーしたドイツのハードロックバンドである。
実はこのフェア・ウォーニング、2000年にメンバー間のゴタゴタにより一度解散(のちに再結成)しているのだが、創作意欲マンマンのガチャ……ヘルゲはどうにか自分の作る音楽を発表する場はないかと考え、新たにバンドを結成することを決意するのである。そのバンドこそがこのドリームタイドで、彼らはのちのフェア・ウォーニング再結成までの間に3枚のアルバムを発表しているが、そのどれもがフェア・ウォーニングにも劣らぬ高い完成度を誇っている。音楽性でいえばフェア・ウォーニングはボーカリストであるトミー・ハートの広がりのある声質もあり、どこか浮遊感のある印象を受けるが、ドリームタイドはどちらかというと地に足がついたような男臭さがあり、音もフェア・ウォーニングより全体的にヘヴィである。
『ヒア・カムズ・ザ・フラッド』はそんな彼らのファーストアルバム。フェア・ウォーニング解散直後ということもあり、ガチャ……ヘルゲの生み出すメロディには思いっきりフェア・ウォーニングの節が感じられる。つまり上で書いたようなドリームタイドならではの個性もこのときはまだ薄かったと言えるのだが、ファンが当時ドリームタイドに求めていたのは結局フェア・ウォーニングの穴埋めで、フェア・ウォーニングの意思を正統的に継承するところからスタートしたドリームタイドは好意的に受け入れられた。ガチャピ……ヘルゲの戦略は正解だったのである(そこまで考えていたかどうかは不明だが)。
しかしひとつだけ問題があった。ガチャピンの奏でるスカイギターもメロディの美しさもまさにポ……フェア・ウォーニングそのものだったが、肝心のボーカルがトミー・ハートと比べるとどうしても見劣りしてしまうのだ。高音がどうにもきつそうなのである。アルバム1曲目の超名曲『What you believe in』を聴いて誰もが「これをトミー・ハートが歌っていたら…」と思ったものである。まあこの当時無名だった(今でもか)ボーカリスト、オラフ・ゼンクバイルはセカンドアルバムで劇的に成長をみせるのだが、この時点では『ヒア・カムズ・ザ・フラッド』は素晴らしいアルバムだが、結局ポン……フェア・ウォーニングの劣化版という印象がぬぐえなかった。
しかしジャケットに関しては確実にポンキッ……フェア・ウォーニングより優れていると思う。ガチャピンのアイデアだろうか、この『ヒア・カムズ・ザ・フラッド』のジャケットは素晴らしい。全体的にゆらゆらと波打っている模様はドリームタイド(夢の波動)というバンド名から来る表現だろう。羽根のついた網のようなものはドリームキャッチャーと言われるアメリカの先住民に伝わる魔除けの道具だそう(下北あたりの古道具屋にたまに売ってる)。しかしさらに注目してほしいのは、裏ジャケットやブックレットの中面のデザインである。
工場萌えという言葉が少し前から流行っている。工場のあの独特の入り組んだ形にある種の芸術性を見出し、わざわざ写真を撮るためだけにいろいろな工場に足を運ぶ人たちがいるのだ。実は僕もその気持ちは理解できる。工場のあのどこか退廃的な空気感、何とも言えないあの哀愁感が僕も大好きで(別に写真を撮りに行ってるわけではないが)、このジャケットとブックレットのデザインにはまさに工場萌えと同じ性質を感じる。そしてこのデザインが楽曲とリンクすることによってより深いイマジネーションを呼び起こさせるのである。ドリームタイドのアルバムはどれもブックレットのデザインがこんな感じなので、いずれほかのアルバムも紹介したいと思う。
ポンキッキーズ解散後も決して休まず常に素晴らしい音楽を我々に届けてくれたガチャピン。現在はポンキッキーズの活動に専念しているが、いずれまたドリームタイドとしてのニューアルバムも期待したいところだ。