圧倒的な存在感を放つ右曲がりのスティッキー・フィンガー!〜ザ・ローリング・ストーンズ『スティッキー・フィンガーズ』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第32回:圧倒的な存在感を放つ右曲がりのスティッキー・フィンガー!
今回ご紹介するのはこちら。
ザ・ローリング・ストーンズ『スティッキー・フィンガーズ』(1971年)
これを聴けばローリングストーンズ以上のロックンロールバンドなど存在しないことを疑う者はいないだろう。荒々しく猥雑で、危険で美しい。50年を超えるストーンズの歴史のなかでも最高傑作と評される一枚である。
ストーンズの実質的なリーダーであった天才、ブライアン・ジョーンズが世を去り、後任として入った名手ミック・テイラーがフルで参加した初のアルバムであると同時に、彼らが自ら立ち上げたレーベルとしても初のアルバムであったため、ストーンズにとって重要なターニングポイントとなるアルバムだったが、『ベガーズ・バンケット』『レット・イット・ブリード』と歴史的な名盤を連発していたストーンズの勢いは留まらず、この『スティッキー・フィンガーズ』と、続く『メイン・ストリートのならず者』で彼らは完全にロック界の頂点をみることになるのである。
だがこのアルバムが名盤であるということは、仮に何の前情報もなしに聴いたとしても、ストーンズ屈指の名曲『ブラウン・シュガー』の冒頭のリフを聴けば瞬時に理解できる。まさに抑え切れないほどの巨大なエネルギーを一気に解き放つかのような圧倒的な充実感を感じさせるリフである。これほどのエネルギーをもつ曲が冒頭にある場合、2曲目以降で急にコケることなどそうそうありはしない。むしろそのエネルギーがアルバム全体に影響を及ぼしているからこその名盤であり、さらにはこの時期のストーンズのキャリアそのものにまで影響を及ぼしているために、以降もその勢いのまま名盤を連発できているのだと思う。それほどまでに『ブラウン・シュガー』という曲は強力なのである。
そしてジャケット。これを見れば『スティッキー・フィンガーズ』以上にロックンロールなジャケットなど存在しないことを疑う者はいないだろう。右曲がりのスティッキー・フィンガーが見事にその存在を主張している。スティッキー・フィンガーはこの時点ではまだ下を向いているが、次作でならず者となり完全に頂点を見ることになるのである。まあネタという意味ではどちらも下を向いているが。
・・・・・・上手いよね?
アートワークを担当したのは20世紀のポップアート界の巨匠、アンディ・ウォーホル。ストーンズ以外にも様々なアーティストのジャケットデザインを担当している。有名なのはヴェルヴェット・アンダーグラウンドのバナナのジャケットだ。『スティッキー・フィンガーズ』といい、この人はバナナが好きなのだろうか。
・・・・・・上手いよね?
ちなみにアナログ盤にはジャケットに本物のジッパーがついていて、実際に開けることも可能だったようである。僕が生まれるはるか前にすでにこんな遊び心のあるジャケットがあったことも単純に驚きだ。
「これを聴かずしてロックを語るな!」的なアルバムが多すぎて嫌になるが、『スティッキー・フィンガーズ』を聴かずしてロックは語れない。というかストーンズを聴かずしてロックなど語れるはずがない。ロックを語りたければまずは『ブラウン・シュガー』の圧倒的なエネルギーにぶっ飛ぶがいい。
・・・・・・さっきの上手かったよね?