ジャケットの素晴らしさで10年越しに購入を決意〜山下達郎『ARTISAN』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第33回:ジャケットの素晴らしさで10年越しに購入を決意
今回ご紹介するのはこちら。
山下達郎『ARTISAN』(1991年)
正直この人の音楽はかなり最近になるまで通ってこなかった。1970年代から活動を続ける大ベテランでありながら、僕のがっつり世代である1990年代J-POPのヒットチャートにも頻繁に顔を出す邦楽界の偉人のひとり、という位置づけが僕のなかにあったのだが、CDTVなどのランキングの流れのなかでサビの一部だけを聴いた印象だとあまりよさは理解できなかったというのが正直なところだ(そういう曲はほかにもたくさんあるが)。
ただその独特の声質は一発で山下達郎その人とわかる個性を放っており、この手のタイプはCDを買ってしっかり向き合って聴いたら実はよかったというパターンが意外と多いので、いずれはCDを買おうと決めてそのタイミングを虎視眈々と狙い続けていたのである。
それから10年が経った。
僕はまだ虎視眈々と狙い続けていた。いや、買おうとはずっと思っていたのだ。思っていたのだが、あまりにも欲しいCDが多すぎて後回し後回しになってしまっていたのである(音楽ってやつは本当に罪なカルチャーだぜ)。しかしようやくそのときは訪れた。CDショップでこの『ARTISAN』を発見したとき、まずそのジャケットデザインに惹かれた。陽気なポップアート。僕のなかの山下達郎のイメージにもぴったりマッチしていた。画家の名はアンドレ・ミリポルスキーというらしい。山下達郎以外にさまざまなアーティストのジャケットやロゴデザインなどを手がけている売れっ子のようだ。この美麗なジャケットを見て僕はアルバムの購入を決意した。そしてそれは見事に当たりだった。
この時代特有のウェット感のあるサウンドプロダクション。美しいメロディ。そして何よりどの曲も頭に景色がイメージできるのがいい。『ターナーの汽罐車 -Turner's Steamroller-』などはまさにターナーの絵画のある風景が目に浮かぶし、『飛遊人 –Human–』は幻想的な雰囲気のなかにも芯の強さを感じさせる名曲だ。そして亡き手塚治虫への追悼ソング『アトムの子』。シンプルなメロディだが軽快なリズムとアレンジがまるで本当に子どもの頃にヒーローアニメを見ていたときのようなワクワク感を呼び起こさせてくれる。
しっかりと向き合うまで随分時間がかかってしまったが、ようやく山下達郎と出会えた。そしてこのアルバムから入ったことでその出会いは素晴らしいものとなった。改めて僕にとってジャケットデザインというのは音楽を聴くのに非常に重要な要素を占めているのだなと思った。いずれまたほかのアルバムも聴いてみようと思う。
10年後に。
いや、ちょっと聞きたいのがほかにも多すぎるもので……。順番とかいろいろあって……。
音楽ってやつは本当に罪なカルチャーです。