もっとダンディ坂野さんを見習ってくれ!〜アイアン・メイデン『死の舞踏』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
番外編(第34回):もっとダンディ坂野さんを見習ってくれ!
月の最終火曜日は悪口の日。ということでやってきました恒例のヒドすぎるジャケット紹介の回。今回はブリティッシュ・ヘヴィメタルの重鎮に噛みついちゃいます。
アイアン・メイデン『死の舞踏』(2003年)
ジューダス・プリーストと並びヘヴィメタル界の二大巨頭として君臨し続けるアイアン・メイデン。メタル界最強のボーカリストとして名高いゴリラであるブルース・ディッキンソンを擁し、メンバー全員60歳を超えた今現在こそキャリアの全盛期と言われるほど精力的に活動し続けている化け物のようなバンドである。
しかしそんな彼らにも低迷期はある。1990年代にゴリラがバンドを脱退してしまうのだ。「音楽性の違い」という正統派の理由である。その後任として加入したブレイズ・ベイリーはゴリラじゃないうえにメイデンサウンドとの相性の悪さによりファンからは大不評。ピンチに陥ったバンドはゴリラと和解し、再びゴリラをボーカルに据えメイデンらしさがこれでもかというくらいに凝縮された名盤『ブレイヴ・ニュー・ワールド』(2000年)で完全復活。ここから再び黄金のキャリアが幕を開けるのである。
そして『ブレイヴ・ニュー・ワールド』に続くメイデン黄金期の第2作目こそがこの『死の舞踏』となる。相変わらずどこをどう切り取っても一発でわかるメイデンサウンド。攻撃的ななかにもどこか陰を感じさせるのはイギリスのバンドならではといったところ。何よりゴリラのボーカルがやはり強力で、脱退前よりもパワーアップしている印象すら受ける。ただプログレの影響も受けている彼らゆえ、長尺の曲が多くトータル時間も長いので通して聴くとちょいと疲れるという難もあるが。
しかしそんなことよりも問題はジャケットである。メイデンのジャケットには昔からある共通点がある。それは「エディ」という名のバンドのマスコットキャラクターが必ず登場していることだ。エディはグロデスクな見た目のゾンビで、普段ヘヴィメタルを聴かない人たちに「ヘヴィメタルは残酷で邪悪な音楽だ」という偏見を植えつけるのにひと役買っている。エディのせいでヘヴィメタル初心者もなかなかアイアン・メイデンから入ろうとは思わないわけである。だがそれはまあいい。というのもメイデンのジャケットはどれもグロいしダサいのだが、デビュー当時から変わらず同じコンセプトのジャケットにし続けていることに僕はある種の美学を感じるからだ。「誰が何と言おうと俺達はこれでいくんだ」という誇りや気概があるように思えるのである。実は一見不正解のように思えることも、長く続けていれば正解に変わる場合がある。ダンディ坂野さんの「ゲッツ」もブレイク当時よりも今見る方がおもしろい。なのでこれまでのメイデンのジャケットに関してはダサいとは思うがそれは「かっこいいダサさ」だと思うので僕のなかでは全然ありだった。
しかしこの『死の舞踏』だけは気にくわねぇ!!
何がってこの安っぽいCGである。メイデンのジャケットにB級感はつきものだが、こういうことではない。コンセプトも色合いも構図も悪くないし手描きであればむしろいつもよりもいいジャケットだったかもしれないのだが、薄っぺらいCGに頼ってしまったばかりに体温のない無機質なジャケットに見えてしまうのである。せっかくいつもよりかっこよく死神衣装でビシッと決めたエディ君も安いCGのせいでいまいち映えていない。メイデンのサウンドにある深みや温もりがジャケットで表現しきれていないのがとても残念だ。
もし今後リマスター盤などが出る場合、ぜひジャケットを手描きに変えて出してみてほしいと思う。
ところでアイアン・メイデン大好きの芸人、橋山メイデン君は童貞である。