KALDIにありそうな高尚なジャケット〜ブラックモアズ・ナイト『ゴースト・オブ・ア・ローズ』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第36回:KALDIにありそうな高尚なジャケット
今回ご紹介するのはこちら。
ブラックモアズ・ナイト『ゴースト・オブ・ア・ローズ』(2003年)
この連載2回目の登場となるブラックモアズ・ナイト。ディープ・パープル、レインボーというロック史に残る巨大なバンドのリーダーであり、ステージでエレキギターを破壊するなどといった派手なパフォーマンスにより“狂気のギタリスト”と呼ばれたリッチー・ブラックモアが、この世のエレキギターをすべて破壊し尽くし、することがなくなってしまったため仕方なくアコースティックギターに持ち替え、中世ルネッサンス期の風情漂うフォークミュージックをやるために組んだバンドである。
というのはもちろん1ミリも面白くない冗談で、実際はただの趣味である。こういう音楽がずっとやりたくて、やれる環境が整ったからやっている。それだけのことだ。綺麗な奥さんと一緒に。
この『ゴースト・オブ・ア・ローズ』もブラックモアズ・ナイトとしてはもう4作目に当たる。このあたりになると往年のハードロックなリッチーを求めるファンの間にはもはや諦めの気持ちが渦巻いており、哀愁の空気さえ漂っていた。フォークの世界に行ってしまったリッチーはもうロックの世界には帰ってこないのではないか……。哀愁漂う彼らの背中には思いっきりフォークが流れていた。
そんな人たちがいるなかで言いづらいが、正直そこまでリッチーのファンじゃなくてよかった。僕はディープ・パープルもレインボーも好きだけど、リッチーのすごさは実はあまり理解できていない。ディープ・パープルでともに活動したジョン・ロードのほうがすごいと思ってしまっているタイプだ。そのためエレクトリック・ブラックモアにそこまで思い入れのない僕はブラックモアズ・ナイトの音楽性もすんなりと受け入れられたし(リアルタイムでロックをやるリッチーを見ていないという違いもあると思うけど)、むしろ大好きなバンドのひとつである。
それに前も書いたが、個人的にはリッチーはアコースティックギタリストとしてのほうが好みなのだ。ブラックモアズ・ナイトでの彼のギタープレイは本当に素晴らしく、正直ここまでテクニックがあり表現の幅が広いギタリストだとは思っていなかった。もともとのロックギタリストとしての個性がフォークという音楽のなかでより際立って見えるということもあるかもしれない。X JAPANのToshlさんが偉大なメタルシンガーという個性があるからあれだけバラエティで映えるのと同じように。
それにこれも前にも書いたが、ロックをやめたからといってリッチーの作曲能力が衰えたわけではまったくなく、ブラックモアズ・ナイトとしても彼は素晴らしい曲をたくさん生み出している。何しろこの『ゴースト・オブ・ア・ローズ』は見事である。路線はこれまでと変わらず新しさを感じる要素は少ないが、単純に楽曲の充実度が半端ではない。冒頭から終わりまで途切れることなく聴き手の意識を中世ヨーロッパの世界に誘ってくれる。ちなみに一部の曲ではエレキギターも披露している。
ジャケットもこれぞブラックモアズ・ナイトといった感じで、ゴーストという要素がホラー的な感じではなく神秘的なモチーフとして描かれているのが、作品をより高尚に見せているように思う。KALDIあたりで売ってる洒落た紅茶缶のようでもある。
リッチーが最もやりたかったことであり、リッチー史上最も長く続いているプロジェクトであるブラックモアズ・ナイト。最愛の綺麗な奥さんとともにやりたい音楽を自由にできている今のリッチーはきっととても満たされているのだろう。今の彼は間違ってもアコースティックギターを破壊したりはしない。
狂気のギタリストは今狂喜のギタリストになっているのだから。
と思ったら最近レインボー再結成してやがる。
どない!?