思わずジャケ買いしたカントリーギターの傑作〜ドック&マール・ワトソン『ダウン・サウス』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第48回:思わずジャケ買いしたカントリーギターの傑作
今回ご紹介するのはこちら。
ドック&マール・ワトソン『ダウン・サウス』(1984年)
カントリー/ブルーグラス系のジャンルをこの連載で取り上げるのは初となる。実際、普段主食として聴いているようなジャンルではないのだが、こういった音楽自体は大好きで、自分がもしもう一度音楽を本格的にやるとなった場合はこういう温もりのあるカントリーやブルースをやりたいと思っているくらいだ。
ドック・ワトソンは1923年生まれのアメリカのギタリスト。超絶技巧的なフラットピッキングによる速弾きで後世に多大な影響を及ぼしたルーツミュージック界の偉人で、何より驚きなのはそれほどの技術を持ちながら彼は視覚障害者であるということ。音楽界にはほかにも視覚に障害があるミュージシャンはいるが、目が不自由な人というのはそのぶんほかの感覚が鋭くなるのだろうか? 無知な立場ゆえ勝手にそう思ってしまう。ギターの場合だと正確な演奏をするための鋭い触覚、いい音を聞き分けられる確かな聴覚を持ち合わせているということなのか。
何にせよ技術以上に心のこもった美しいギターと歌声、そしていいメロディを全編にわたって味わえる最高の一枚である。タイトル曲『Down South』などはいつ聴いても涙がこぼれそうになるほど美しい曲だ。しかもこのアルバムでは息子のマール・ワトソンも同じくギターで参加し、親子ならではの息のぴったり合った素晴らしい演奏を聴かせてくれている。ただ残念なことにこのアルバム発表直後、マール・ワトソンは農作業中のトラクター事故で亡くなっている。つまりこのアルバムが親子最後の共作となったわけだ。
ところで僕はこのアルバムを買うまでドック・ワトソンという人の存在そのものをまったく知らなかった。ではなぜこのアルバムに手を出そうと思ったのか。理由はいたってシンプルで、ジャケットがよかったから。つまりジャケ買いしたのである。味わいのある年季の入ってそうな建物の前でギターを弾く親子。たまたまその場に居合わせたような感じでそれに見入る子ども。なんてことはない日常のごく一部を切り取ったようなリラックスした雰囲気。何とも心和む写真である。またこの直後にマール・ワトソンが亡くなったことを思うと、よりこの何気ない写真がかけがえのないもののように思えてくる。
ドック・ワトソンは2012年に89歳でこの世を去った。今頃は天国で息子とセッションでもしているのだろうが、彼の残した土臭く血の通った音楽は20世紀の大きな遺産としていつまでも語り継がれていくことだろう。
クサい文章で今週はここまで。