躍動的なジャケットも魅力、名ボーカリストのラスト参加作〜アングラ『ファイアワークス』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第49回:躍動的なジャケットも魅力、名ボーカリストのラスト参加作
今回ご紹介するのはこちら。
アングラ『ファイアワークス』(1998年)
サンバやボサノヴァなどのラテンミュージックのイメージが強いブラジルから生まれた偉大なるヘヴィメタルバンド。ドイツのハロウィンからの影響を明らかに受けたメロディックスピードメタルを軸に、クラシカルなフレーズやブラジルの民族音楽を取り入れたサウンドが彼ら独自の個性となっている。
『ファイアワークス』は彼らの3枚目のアルバム。ファースト、セカンドアルバムともに素晴らしい作品を出してきた(特にファーストアルバムはメタル界屈指の名盤!)彼らだが、このアルバムに関しては賛否両論といったところ。原因はこれまでに比べて正統派のヘヴィメタル的アプローチが強く、彼ららしいクラシック音楽からの影響や民族音楽的要素が薄くなっていることなどがよくあげられるが、結局のところは楽曲がピンとこなかった人が多いということだろう。個人的には単純に楽曲が充実していると感じたので、らしさ云々というところに関してはまったく気にならなかった。大好きなアルバムである。
そもそも僕にとってアングラをアングラたらしめている大きな要因として、ボーカル、アンドレ・マトスの存在が大きかった。彼の粘っこく、よく裏返る高い声はあまりにも独特で、好き嫌いは分かれるところだろうが、一瞬で彼とわかるその声こそが僕にとってはアングラそのものであったのだ。ただメタルファンはもうすでにご存知だろうが、彼はつい先日、6月8日に47歳の若さでこの世を去った。原因は心臓発作とのこと。彼を知らない人はぜひともアングラのファーストアルバム『エンジェルズ・クライ』を聴いてみてほしい。ファーストアルバムにしていきなりケイト・ブッシュの『嵐が丘』をカバーするという離れ業をやってのけ、そこでのアンドレの声がまたおもしろいほどよく裏返るのだが、それでいてちゃんとした名曲に仕上げられているのがすごい。
『ファイアワークス』はアンドレが参加した最後のアルバムで、アングラは後任シンガーとしてアンドレほどクセもなく歌唱力の高いエドゥ・ファラスキを迎え活動することになる(アンドレはアンドレでシャーマンというバンドを始動)。ちなみにアルバムタイトルの『ファイアワークス』という言葉自体は花火からインスパイアされたものらしいが、肝心のジャケットでは火吹きの曲芸師がモデルとなっている。花火と同じように炎の瞬間的な美しさを捉えた躍動感のある素晴らしいジャケットである。
本作はメロディックスピードメタルの偉大なるボーカリストの魅力が存分に詰まった名盤である。初めて聴く人はアンドレのよく裏返る声にぶっ飛んで裏返ればいい。