ファンの人怒らないでください〜ジョン・レノン『ジョンの魂』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
ビートルズの活動中もオノ・ヨーコとともに別プロジェクトとして音楽活動を行ってはいたジョン・レノンだが、同作は彼にとってビートルズの解散後初となるソロアルバム。20世紀が生んだ最大の芸術家のひとりであるジョン・レノンの最高傑作と言われ、ある種の哲学書のような次元で語られているこのアルバムを、世間の評価ほど彼の才能を理解しきれていない僕が語るのは少々気が引けるところだが、素晴らしいジャケットを紹介するという趣旨のこの連載においてはちょっと外せない1枚でもあるので、ここへきて紹介させていただこうと思う。
世界一のロックバンドにまで上りつめたビートルズの解散はジョンにとってさまざまなしがらみやストレスからの解放だったのだろう。ここでは偶像としてのロックンローラーの仮面を脱ぎ捨て、人間としてのジョン・レノンの心情をありのままにぶつけてきている。当時「プライマル・スクリーム」と呼ばれる人間の潜在意識に潜む苦痛を幼児体験まで遡って吐き出すという精神療法を受けていたジョン(治療中、少年期の母親との死別を思い出して大泣きしたという)だが、その影響がアルバムに色濃く反映されており、『マザー』などではまるで子どものような叫びを聞かせたり、『母の死』という直球的な曲もあったりと、気軽に聴くことが許されないようなシリアスな内容となっている。また「ビートルズを信じない」というフレーズも当時ファンを相当戸惑わせたようだ。
そんな心の闇とも取れる深い部分をさらけ出しているアルバムだが、ジャケットは打って変わってなんとも穏やかな雰囲気である。やはりこれまでに感じてきたさまざまなしがらみから解放され、これからは愛する人とともに好きなことを好きなように追求していけるという心の安らぎが表現されているのだと思う。まるで印象派の絵画のような美しいジャケットである。
今年40回忌を迎えるジョン・レノンだが、偉大なクラシック作曲家などと同じく間違いなくこの先何百年にも渡ってその名は語り継がれることだろう。そして僕もこの顔である限りずっと「ジョン・レノンじゃないですよね?」を言われ続けるのだ。誰か「クリンスイのコップ先生じゃないですよね?」って言え。