タイトルと呼応して深いイマジネーションを駆り立てられるデザイン~ウィッシュボーン・アッシュ『巡礼の旅』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第91回:タイトルと呼応して深いイマジネーションを駆り立てられるデザイン
今回ご紹介するのはこちら。
ウィッシュボーン・アッシュ『巡礼の旅(原題:Pilgrimage)』(1971年)
まずいいバンド名だ。イメージにも合っているし韻も踏んでいて気持ちがいい。ただツェッペリンやエアロみたいに略せないのが問題だ。「ウィッシュボーン」や「アッシュ」と呼ばれているのは聞いたことがない。「ウィッシュ」じゃ北川景子の相方だし。
まあそんなことはいいか。
ロック好きで知らぬ者はいない、というほどではないが、さまざまな音楽文献でその名を見る機会は多く、そこそこ深くクラシックロックの世界に踏み込んだ者が手を出すラインのバンドというイメージ。特に彼らの最高傑作とされる『百眼の巨人アーガス(原題:Argus)』はタイトルのインパクトもあり聞いたことのある人は多いと思う。
僕が現状持っているのはその『百眼の巨人アーガス』とこの『巡礼の旅』のみ。プログレッシブロック、フォークロック、ジャズ、ブルース、ブギなどといった要素が混ざり、歌のみならずインストパートにも大きく重点を置いたスタイルで、世界観は壮大なファンタジー映画を思い起こさせる。
『巡礼の旅』はよく言われているとおりインストパートが非常に充実したアルバムで、特に彼らの最大の個性とも言えるツインリードギターが素晴らしい。素人なのであまり専門的な解説はできないが、ソロの掛け合いなどはまるで気の合う友人同士のいい意味で力の抜けた会話のように自然で心地よく、またベースやドラムもお互い信頼を持ったうえで楽しそうに演奏しているのが伝わってくる。おそらくこれがバンドのあるべき姿なのだろう。強い一体感を感じることのできるアルバムである。実力が拮抗した者同士のアドリブ感のあるハイレベルな掛け合い。僕もこういうのをお笑いでもっとやりたいのである。
素晴らしいインストパートに注目が集まりがちだが、ボーカルのよさも決して無視できない。収録曲『告別』におけるあえて無感情に淡々と歌い上げる様はむしろ楽曲の色を強調することに成功している。
そしてジャケットはこの時代のロックバンド御用達の売れっ子のアートグループ、ヒプノシスの手によるもの。この連載でも度々ご紹介している。木の枝の間から覗く月を独特の色合いで表現しており、幻想的であると同時に見る者を不安にさせるような禍々しさも感じられる。アルバムタイトルと呼応して深いイマジネーションを駆り立てられるデザインである。
素晴らしいアルバムだが、『百眼の巨人アーガス』はもっとすごい。バンドたるものこうあるべしを体現しているバンドなので、まさにGZKである。
あ、(G)現代の人にも(Z)是非(K)聴いてみてほしい。