ジャケットはくそダサいのになぜ中身はこんなに素晴らしいんだ~イングヴェイ・マルムスティーン『ファイヤー・アンド・アイス』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
番外編~残念なジャケット~(第90回):ジャケットはくそダサいのになぜ中身はこんなに素晴らしいんだ
前にも書いたが、実はいいジャケットを見つけるよりもヒドいジャケットを見つけるほうが難しいのである。メタル系などはあえてそうしているものも少なくないし、ぱっと見てダサいなーと思ってもよく見ると実は深い意味が込められているのではないかと思えてくるものもあったりして、選定はなかなかに難しい。
ということで困ったときはイングヴェイである。
イングヴェイ・マルムスティーン『ファイヤー・アンド・アイス』(1992年)
この人の暴走ナルシストっぷりは本人は本気でかっこいいと思っているうえで妙な方向にいってしまっているものが多いので、まさにこの最低のコーナーにうってつけなのだ。今回はそんなイングヴェイのアルバムのなかでもわりと頻繁にダサいジャケットとして取り上げられる機会の多い『ファイヤー・アンド・アイス』を。実はこの連載のタイトル画像(ヘッダー)にも最初から存在していた。ここへ来てついにご紹介する時が来たのである。
毎度新しいメンバーをべた褒めしてバンドに入れてはすぐに手の平を返してボロカスに悪口を言いクビにする、という流れが様式美となっているイングヴェイだが、彼のバンドに在籍していたミュージシャンは基本手練れが揃っており、本作に関しても凄腕のミュージシャンたちによる一級品のバンドアンサンブルを聴かせてくれている。肝心のギタープレイも相変わらずすさまじい速弾きを披露しながらもただのごり押しに終わらず、しっかりと聴かせるプレイを熟知しているところが憎い。クラシカルなフレーズはもちろん、もろジミヘンの影響を感じさせるような曲でも、並みのギタリストがやればただの物真似に陥ってしまうところをイングヴェイは限りなくその精神性に肉薄できている。彼を見てると芸の腕前と人間性は比例しないものだなとつくづく考えさせられる。
そう、彼の人間性を考えるならこのジャケットのようなクオリティが本来はふさわしいのである。傲慢で自分大好きの性格が全面に出すぎて、本人はかっこいいつもりでも見ているほうが少々恥ずかしくなってしまうようなダサさ。この見事なまでのスベりっぷり。本来なら音楽もそれに見合ったダサさでなければ割に合わないのに、なぜ中身はこんなに素晴らしいんだ。ジャケットのこのくそダサいポーズがそのまま音楽の中身にも出ていなければおかしいだろう。冷静かよ!
まったく、人間というのは本当に理不尽で奥深い生き物である。しかしそんな彼も今じゃさすがに大人になってだいぶ丸くなったようだ。
・・・・・・それはそれでおもしろくない(理不尽)。