このダサいジャケットは大正解なのである~ヘルダンプ『201X』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第93回:このダサいジャケットは大正解なのである
今回ご紹介するのはこちら。
ヘルダンプ『201X』(2018年)
どうしたファラオ。最終水曜日は来週だぞ。ヒドいジャケットを紹介する番外編にはまだ早いぞ。それともシンプルにセンスイカれたのか?
と思うかもしれない。しかしまあ聞いてほしい。
ヘルダンプは日本のヘヴィメタルバンドである。裏の裏の裏の裏の裏の裏の裏の裏社会のお偉いさんが「このままでは日本のロック界はだめだ」と嘆き、生身の体では限界があることを悟り、茨城県筑波研究学園都市のロボットテクノロジーを駆使し人体を改造することによって生まれた人造人間によるメタルバンド、それがヘルダンプなのだ!
そして流石は人造人間。安定感抜群の演奏力と曲作りのセンスのよさ。絵に描いたような王道メタル曲もあれば1980年代~1990年代のアイドル歌謡のような曲もあり、歌詞の内容もぶっ飛んでいる。まるでギャグ漫画から飛び出してきたような存在である。確かに生身の体で生み出せるレベルを超えている。そして時たま普通に「お化粧が大変」とかも言っちゃう。
彼らの目指す方向性は「熱い」「ダサい」「イモくさい」をフルスピードで突っ走る「色物界の頂点」。
もうおわかりだろう。そんな彼らのコンセプトにおいてこのダサいアルバムジャケットはむしろ大正解なのである。逆にダサくなければ納得できない。これだけ方向性をしっかり固めておいて変にオシャレなジャケットだったらむしろ最終水曜日行きになっていたかもしれない。はっきりと色物界の頂点を目指すと言ってしまっている彼らだからこそこの迷いのなさが清々しいのである。
ただもちろんここで取り上げたのはそもそも彼らがミュージシャンとして高い実力を兼ね備えているからに他ならない。だからこそこの方向性に説得力があるというものだ。この『201X』もメロディやアレンジ含めメタルファン向けのアグレッシブさと一般大衆向けのキャッチーさのバランス、曲の幅広さや全体の構成に至るまで聴き手を退屈させないための工夫がよーく練られている。そしてライブではその10倍楽しませてくれる。そう考えると結果の良し悪しは過程によって全然変わってくるのだなと改めて思い知らされる。
彼らも人造人間になってからもう10年以上経つらしいが、人間社会を把握するために別で仕事もしているらしい。芸人でもそうだが、その実力に見合った評価と収入が得られていない人はまだまだ多い。
ヘルダンプは絶対に売れていい。売れれば絶対にエンタメの世界は盛り上がる。そのためにももっと影響力のある人に見つからんものか……。