このパターンお笑いでもよくあるやつだ~ジーノ『ジーノロジーII』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載

連載・コラム

[2020/5/27 12:00]

音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。


番外編~残念なジャケット~(第94回):このパターンお笑いでもよくあるやつだ


というわけで最終水曜日。今月の生贄は連載初期に一度取り上げたジーノを。あのときは僕の所持するCDの中でもトップ3くらいに入るほど好きなジャケットとしてデビューアルバム『ZENO』を紹介させていただいたが、まさかそんなジーノを最終水曜日に取り上げる時がくるとは。人生とはわからないものだ。しかしこれも宿命というやつか……。ならばこの重い十字架、甘んじて背負っていこうではないか。

ジーノ『ジーノロジーII』(2005年)

<あの海外セレブの背後に偶然ロバートが写り込む奇跡>

ジーノはドイツのハードロックバンドで、1980年代から非常にマイペースなリズムで活動しており、これまで発売した音源もキャリアの割に少なく、またセールス的にも大きな成功を手にしているとは言えないのだが、その圧倒的なメロディの美しさや独特の東洋的な世界観は一部のハードロックマニアの間で非常に高い評価を得ていて、まさに知る人ぞ知る天才といった存在である。ちなみにリーダーであるジーノ・ロートはあのギター仙人、ウリ・ジョン・ロートを兄にもつ。ジーノ・ロートは残念ながら一昨年61歳にして病気で亡くなってしまった。

『ジーノロジーII』は過去の未発表曲集である『ジーノロジー』(1995年)の第二弾であり、やはりこちらも未発表曲集である。しかし未発表曲だからと言ってナメくさってはいけない。『ジーノロジー』もそうだったが、今回もまたどの曲も未発表曲と言うにはあまりにもいい曲過ぎるのである。完全なるニューアルバムとして見てもまったく違和感はない。

しかしそれがジーノというバンドであり、ジーノ・ロートという人なのである。この人の完璧主義っぷりはすべての楽曲に対して一切の妥協を許さない。同作も曲によって制作時期は若干異なるとはいえ散漫な印象を感じることもなく、相変わらずの美しいメロディ、甘美なギターソロ、そして神秘的な世界観と、まさに「聴く光」とも言うべきジーノならではの魅力がたっぷりと詰まった文句なしの名盤である。正直ロックの世界でこれほど美しいメロディを生み出せるのはジーノかその弟分的バンドであるフェア・ウォーニングくらいだと思う。

いや、まじで。この一族はメロディという点で本当にすごい。

ただ今回のジャケットはやはりいまいちである。いや、まじで。

まあおそらく今回の曲のもともとの制作時期である1983年~1989年当時の思い出的な写真なのだろう。別に写真としては全然いいと思うのだが、正直これは裏表紙などに使って表紙にはジーノらしい深みを感じさせるデザインを施してほしかった。かろうじてバンドロゴとタイトルの光にジーノの神秘性は感じられるものの、もっとジャケットデザインからその音楽性を想像させられるようなものが個人的には好きなのである。完璧主義のジーノだけに手を抜いたというよりは考えすぎて逆に妙な所に着地してしまったパターンかもしれない。お笑いでもよくあるやつだ。内容は文句なしに素晴らしいだけに残念である。

まあとにかくいいメロディが好きな日本人には絶対お勧めのバンドなので、ハードロック界の宝石ジーノをぜひとも聴いてみてほしい。

平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)

ひらい“ふぁらお”ひかる●1984年3月21日生まれ、神奈川県出身。2008年に新道竜巳とのお笑いコンビ“馬鹿よ貴方は”を結成。数々のテレビ/ラジオ番組に出演するほか、『THEMANZAI2014』『M-1グランプリ2015』の決勝進出で大きな注目を集める。個人では俳優やナレーターとしても活躍。音楽・映画観賞や古代エジプト、恐竜やサンリオなど幅広い趣味を持つ。