成城石井に置いてあったらパパが買ってきてしまうだろう~スモール・フェイセス『オグデンズ・ナット・ゴーン・フレイク』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第95回:成城石井に置いてあったらパパが買ってきてしまうだろう
今回ご紹介するのはこちら。
スモール・フェイセス『オグデンズ・ナット・ゴーン・フレイク』(1968年)
「モッズ」という言葉がある。僕もあまり詳しくはないのだが、ざっくり言うと1960年代イギリスの労働者階級の若者を中心に流行した一大文化だ。おもにファッションなどにわかりやすく反映されており、現代においてもモッズの名残はところどころに見られる(モッズコートなど)。
そしてその文化は当然のようにロックの世界にまで進出し、「モッズバンド」などと呼ばれるバンドも多く存在した。代表的存在と言えば何と言ってもザ・フーだと思うが、それに次ぐ存在となるとおそらくこのスモール・フェイセスになるだろう。
実は今のところ彼らのアルバムはこの1枚しか持っておらず、しかもこのアルバム自体がかなり変化球的内容なので、彼らの軸となる音楽性についてはあまり語れない。でもまあ有名だしきっといいのでしょう。同作が変化球的内容と言うのは、前年にビートルズが『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』でコンセプトアルバムの金字塔を打ち立てたことで、その影響を受けて彼らも全編がストーリーで繋がったコンセプトアルバムを作り上げたというところにある。
内容はロンドンの下町に住む「コックニー」と呼ばれる労働者階級の人々のあいだで伝わる、月を捕まえるために旅に出た「ハピネス・スタン」という男の物語である。当然日本人には馴染みの薄い世界なのでほぼファンタジーとして受け取るしかない。と言っても歌詞の日本語訳を読んだだけでは物語がどう展開し、最後にどうなったのかもよくわからない。ザ・フーのロックオペラアルバム『トミー』なんかもそうだったが、ある程度他の文献や情報も参考にしないと理解しきれないというのはちょっとめんどくさいので以後やめてもらえませんかねえ?
しかし、これまた『サージェント・ペパーズ』の影響を受け思いっきりサイケデリックに寄せたいい意味でガチャついたサウンドは非常に心地よく、また頭に情景が浮かびやすいので理解はできずとも想像はできる。なので物語を理解していない人は独自に想像で補完して楽しめばいいと思う。
そしてジャケットが非常に特徴的で、オリジナルは紙巻きタバコの缶をモチーフにした丸型のジャケット。再発盤のCDでも丸型を引き継いでいるものもある(僕が持っているのは普通の四角いバージョン)。デザインそのものも見るからにお菓子の缶のような可愛らしさとサイケな雰囲気が漂っていて、成城石井の一角に置いてあったら間違いなく家族で食べる用のクッキーのつもりでパパが買ってきてしまうだろう。
それにしてもこのアルバムももちろんいいのだが、結局こんなところにも名前を出さざるを得ないビートルズってやっぱりすごいなあ。