いかに絶対的な個性を持ちながらも自由なバンドであるかを象徴するジャケット~エアロスミス『ジャスト・プッシュ・プレイ』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第96回:いかに絶対的な個性を持ちながらも自由なバンドであるかを象徴するジャケット
今回ご紹介するのはこちら。
エアロスミス『ジャスト・プッシュ・プレイ』(2001年)
日本で最も有名なハードロックバンドと言えばボン・ジョヴィかこのエアロスミスだろう。しかもボン・ジョヴィは売れるほどに一部のマニアぶりたがる人たちから批判の対象とされがちだが、エアロスミスに関しては大衆性の高いポップさをもちながらもマニアからも高い評価を得ている印象がある。
多分それはボーカル、スティーヴン・タイラーの老いてなおヤンチャなロック小僧のごとき立ち振る舞いや、ギターのジョー・ペリーのクールなダンディズムなどから、根源的な“ロックンロール精神”が感じられるからだと思う。チャック・ベリーに続き最近リトル・リチャードまで亡くなったことで、本物のロックンロールを知り、残していける大物はどんどん減ってきている。そのなかで最も頼れる存在がローリング・ストーンズであり、エアロスミスであると思うのだ(幸いスティーヴン・タイラーは御年72歳にしてあと40年、50年は生きるんじゃないかと思うほど元気である)。
そんな文字どおりのモンスターバンド、エアロスミスが2001年に発表したこの『ジャスト・プッシュ・プレイ』だが、あくまで表面上の印象だと非常に“らしくない”作品である。というのもこの作品で彼らは当時最先端のコンピューターテクノロジーを多用しており、骨太なロックサウンドと未来的なデジタルサウンドを融合させた新たなる領域に踏み込んでいるからだ。21世紀という新たな時代の幕開けを象徴しているともとれる。実験性が高いゆえ、ストレートなロックンロールスタイルを求めるファンは受け入れづらいかもしれないし、後のインタビューを読んだ感じでは本人たちもそれほど気に入っていないようなことを言っていた気がする。
しかし純粋に一曲一曲の完成度は尋常でなく高い。またデジタルサウンドの導入はあくまで表面的な実験であって、エアロスミスというバンドのもつ本来のグルーヴ感や温もりは決して失われてはいない。デフ・レパードの『ヒステリア』を思わせるタイプのアルバムだが、こちらのほうがより生々しい。
何が言いたいのかというと、つまりエアロスミスほど何をやってもエアロスミスになってしまうバンドはほかにいないということだ。それは同作のジャケットを見てもそうである。マリリン・モンローのようなポーズをとったセクシーな近未来ロボット。こちらは日本人イラストレーターの空山基(そらやまはじめ)氏によるもの。他のアルバムと並べても明らかに浮いているデザインで、何も知らずに(ロゴも無視して)見るとエアロスミスのアルバムだと思う人はほぼいないと思う。しかし逆にエアロスミスのアルバムだと知った上で見ると結局こんなところも含めて「らしい」と思わされてしまう説得力があるのだ。エアロスミスというバンドがいかに絶対的な個性をもちながらも自由なバンドであるかを象徴するジャケットだと思う。
何をやっても自分の色に染められる者は強い。多分エアロスミスなら『ミニモニ。じゃんけんぴょん!』を歌ってもエアロ色に染めてしまうだろう。