成功者としての彼らの姿が表現されているのかもしれない~ザ・ローリング・ストーンズ『イッツ・オンリー・ロックンロール』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第104回:成功者としての彼らの姿が表現されているのかもしれない
今回ご紹介するのはこちら。
ザ・ローリング・ストーンズ『イッツ・オンリー・ロックンロール』(1974年)
イッツ・オンリー・ロックンロール。これほど美しい言葉はこの地上にそうそうない。
テクニックではキース・リチャーズを圧倒的に上回るギタリスト、ミック・テイラー在籍時のストーンズを黄金期と見る人は多く、同作はテイラーが参加した最後のアルバムである。1960年代後期あたりからのアメリカ南部サウンドへのアプローチは鳴りを潜め、ここでは現在まで続くストーンズの基本的な方向性の第一歩とも言えるシンプルでストレートなロックンロールサウンドを基盤としている。批判的な意見もしばしばみられるが、ストーンズの名作のひとつとして数えられるアルバムで、個人的にも大好きな作品である。
何と言っても取り上げるべき名曲はタイトル曲『イッツ・オンリー・ロックンロール(バット・アイ・ライク・イット)』だろう。いまだにライブでも定番曲として演奏される人気曲であり、「たかがロックンロールですが、私はそれが大好きです」(中学英語教科書風翻訳)という一節は全ロックンロールファンの心に刺さるロック史に残る名言だ。それもストーンズが言うからこそ説得力のある言葉である。またほかにも『タイム・ウェイツ・フォー・ノー・ワン』のどこか日本的な香りのするイントロやテイラーの情感豊かなギターソロなどはアルバムの大きな聴きどころのひとつとなっている。
ジャケットはベルギー人画家のガイ・ピラートによるもの。彼はかつて『Rock Drems』というタイトルの画集でストーンズを描きミック・ジャガーに気に入られ同作のジャケットを依頼されたようだ。ギリシャ風の建物の中でゴージャスに祝福されているストーンズのメンバー。このアルバムから都会的なロックスターらしいサウンドに変化していったことを考えると、成功者としてのストーンズの姿が表現されているのかもしれない。ただもともと予定されていたデザインではメンバー全員が素っ裸の状態で、そのコンセプトをミックが発売前にうっかりデヴィッド・ボウイに話しちゃったことで、先にボウイがガイ・ピラートにストーンズ以上にインパクトのあるジャケットデザインを依頼し、同作より前に『ダイアモンドの犬』を発売させたという逸話もある。したたかな少年ボウイ……。
何にせよ現代においてもロックンロールの生ける伝説として頂点に君臨し続けているストーンズ。どんなにトンガった若手がビッグマウスをぶちまけようと結局超えられない巨大すぎる岩。
イッツオンリーイッツオンリーロックンロールバットアイライクイットバットアイライクイット(訳:たかが「たかがイッツオンリーロックンロールですが私はそれが大好きです」ですが私はそれが大好きです)。