幻想旅行に出かけたいときには最適だ~久保田早紀『サウダーデ』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第116回:幻想旅行に出かけたいときは最適だ
今回ご紹介するのはこちら。
久保田早紀『サウダーデ』(1980年)
今週も100回記念セコセコショッピング企画(https://33man.jp/article/column38/009021.html)で購入したCDのなかから1枚。番外編の前週なので国内アーティストを(この周期気づいてた?)。
久保田早紀と言えば何と言っても有名なのは『異邦人』。異国情緒あふれる雰囲気と美しいメロディは非常に耳に残りやすく、僕もかなり以前からいつか購入したいとずっと思っていた曲のひとつである。ちょっとどうでもいい話をすると、僕は音楽好きのなかでもCDを聴くペースがおそらく遅いほうで、現在タイムリーでハマっているCDはBGMにはせず必ず集中して聴く時間を作っており、1日のうちに聴く時間は最長で4時間まで、しかも同じCDは1日2回以上は聴かないという、自分で考えても相当意味不明で潔癖なルールを設けている。
そんな聴き方をしているゆえにいいアルバムに出会ってしまった場合はそれだけ飽きがくるのも遅くなるので(しかも自分で言うのもなんだがかなり音楽に対しては柔軟に受け入れる感性をもっていると思うので、いわゆる「ハズレ」に当たることがあまりない)、どんどん欲しいと思うCDばかりが増えていき、結果『異邦人』も欲しいと思い始めてからかなりの月日が経ってようやく手に入れたというわけである。この謎の自分ルールはもう長年の習性として染みついてしまっているのでなかなか変えられない。また1度聴いて気に入らなければ次、という聴き方ができればもっと多くの音楽を知ることはできるのだろうが、1度で理解しきれるものなどそうないなか、そんなもったいない聴き方は僕の生物学上できない。
話がそれたが、長年先延ばしにしていた『異邦人』を収録したアルバムを、このたび100回記念企画でようやく手に入れることができたのだ。いつか欲しいと思ったCDは時間が経っても必ず手に入れるのが僕のやり方である。私にとってあなたはただの通りすがりなどではない。お待たせしちゃってごめんね早紀さん。さあじっくりと向き合わせていただこう。
と思って聴いてみたらここでの『異邦人』は思いっきり別バージョンであった。
これに関してはガビーンと言わせていただこう。いや、正直それならそうと曲目のところに書いといてほしかったです。普通に『異邦人』とだけ書いてあるもんだからオリジナル版が収録されているのかと思いましたよ。トホホだぜ。
と最初はだまされたような気分にも正直なったのだが、このバージョン、ポルトガルの民族楽器を前面的にフィーチャー(というかそれのみのアレンジ)することで本格的にエスニックな空気感が強くなり、これはこれで良い味わいがあって結果好きになれた。そもそもこのアルバム、全体の構成がやや特殊で、『異邦人』を含む前半5曲が民族楽器をフィーチャーしたアコースティックな楽曲で統一され、後半5曲は普通の、いわゆる歌謡曲的なもので構成されている。不満も述べたが、トータル的にアコースティックな前半もポップな後半も名曲揃いで、特に歌メロが細かいところに至るまで実に素晴らしく、早紀さんの作曲センスの高さを思い知らされた。歌詞は失恋や別れといった暗いテーマのものが多いが、アルバム全体に漂う旅で感じる開放感や郷愁感によりむしろ爽やかな癒しすら感じさせるあたりが素敵だ。
薄暗い夕暮れ時だかに街灯の下にひとりたたずんでいるだけのジャケットも、どこか物悲しさを感じるアルバムの世界観と見事に調和している。あざとさを感じない、何気ない瞬間を切り取ったような写真だがそれがまた良い。
こういった頭のなかに景色が浮かびやすい世界観をもつアルバムは、一度飽きてもちょくちょく取り出して聴きたくなるタイプのアルバムである。幻想旅行に出かけたいときには最適だ。
まさにトホホからのハピネスでした。