聴き手とアーティストの意識がこのうえないほどマッチしているデザイン~サンタナ『キャラバンサライ』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第119回:聴き手とアーティストの意識がこのうえないほどマッチしているデザイン
今回ご紹介するのはこちら。
サンタナ『キャラバンサライ』(1972年)
今週は100回記念企画で購入したものでなくもともと持っているもののなかから初登場(確か)のサンタナを。
メキシコ出身であり、ラテンロックというジャンルを確立し、何よりその官能的なギタープレイでロック界でも圧倒的な存在感を放つサンタナ。デビュー直後の1969年、ウッドストック・フェスティバルでの衝撃的なパフォーマンスは長く語り継がれる伝説となった。爆発的大ヒットとなった1999年の『スーパーナチュラル』やミシェル・ブランチも起用した2002年の『シャーマン』の話題性などもあり、若い人でもその存在くらいは知っている人が多いと思う。
『キャラバンサライ』はサンタナ初期のアルバムのなかでも最高傑作との呼び声高いアルバムである。一部ボーカルも入ってはいるもののほとんどの楽曲がインストゥルメンタルで、ラテンロックの真骨頂であるパーカッションに、虫の鳴き声といった自然の音を取り入れている。さらに全体の構成として動と静のバランスを非常に上手く混ざり合わせることで、自然の息吹や大地の呼吸のようなものをリアルに感じさせ、聴き手の意識をジャケットのような神秘的な夜の砂漠の世界へと連れていってくれる。この世界観はサンタナ以外ではちょっと味わえない。
全体がコンセプトアルバムともとれそうなくらいの統一感があり、厳かな気持ちにさせられるアルバムだ。もちろんサンタナのギタープレイが素晴らしいことは言うまでもないが、本作ではのちにジャーニーを結成するグレッグ・ローリー(オルガン、ピアノ、ボーカル)とニール・ショーン(ギター)も参加している。
ジャケットはまさに先述したとおり、音楽を聴いて頭のなかに浮かぶ景色をそのまま絵にしてくれたかのような、聴き手とアーティストの意識がこのうえないほどにピッタリマッチしている素晴らしいデザインだ。『キャラバンサライ』(ペルシャ語で隊商の宿泊施設のことらしいよ)というタイトルの響きも含めてすべてが非の打ちどころのないラテンロックの傑作である。
なんてことをまさに『キャラバンサライ』をかけながら書いていたら、ちょうど書き終わるタイミングでアルバムも終わった。夜の美しい砂漠の旅はとても楽しかった。
まあ仕事量的に現実も砂漠みたいなもんですけど。