逆にかっこいいジャケットに見えてきてしまうのである~ザ・フー『セル・アウト』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第130回:逆にかっこいいジャケットに見えてきてしまうのである
今週も昨年の100回記念セコセコショッピング企画(毎度勝手にこう呼んでしまっているがそんなタイトルではない)にて購入した中から(https://33man.jp/article/column38/009021.html)ブリティッシュロックのレジェンド、ザ・フーの『セル・アウト』を。
ザ・フー『セル・アウト』(1967年)
実はこれ購入時は残念なジャケットとして最終水曜日に取り上げるつもりであった。実際ぱっと見た印象ではかなりヒドい。何で腋に水筒当ててんだ。脇汗を溜めて夏場にレモン絞ってグイッといっちゃうのかよ!?と言いたくなる。しかしこのアルバムのコンセプトを知ったうえで見るとあら不思議。逆にかっこいいジャケットに見えてきてしまうのである。
そのコンセプトとは、アルバム全体をひとつのラジオ番組のような構成で聴かせること。その背景には当時存在した海賊ラジオ局(正式な許可を得ずに放送するラジオ。無許可ゆえにさまざまなロックミュージックを自由に聴くことができた)へのリスペクトがあったという(海賊ラジオをテーマにした『パイレーツ・ロック』なんて映画もある。おもしろいよ)。そのコンセプトゆえに曲間にラジオのジングルが挿入されたり、実際の商品を宣伝したCM曲まで含まれている。
そんなコンセプトが背景にあるうえでのこのジャケットだ。要するにメンバーそれぞれが実際の商品を使用し宣伝している広告的なデザインにあえてしているというわけである。
しかしそれだけでは僕はかっこいいと思えるほどには至らない。重要なのはもともとザ・フーは『マイ・ジェネレーション』という若者の不満を代弁するロックアンセムを生み出したバンドだということだ。そんなバンドがこのアルバムでいきなり商業主義に走ったようなコンセプトを掲げてしまうことがすごいのだ。売れるロックがどうという議論はひとまず置いといて、これまでのファンを平気で裏切るような行動を起こせることが僕は単純にかっこいいと思うのである。それこそアーティストとしての成長でありチャレンジだと思うからだ。そんな背景があるからこそこのぱっと見だせえジャケットが逆にかっこよく見えてきたというわけである。
ちなみに楽曲はどうなのかというと、クオリティにややばらつきは感じられるものの全体としては十分に楽しめる内容で、超名曲『恋のマジック・アイ』をはじめ、ザ・フー特有の緊張感のあるグルーヴが各所で味わえる。ちなみに僕は1995年のリマスター版を持っているのだが、このバージョンは『グリッタリング・ガール』や『アーリー・モーニング・コールド・タクシー』といった素晴らしいボーナストラックがいくつも収録されているのでお勧めである。
もともとは残念なジャケットとして最終水曜日に取り上げるつもりだったものをかっこいいジャケットとして通常回に持ってくるという、ちょっと珍しいパターンのアルバムであった。やはり同じデザインでも背景を知ったうえで見ると見え方が変わってくるものなのだろう。
これぞ変なマジック・アイ。