ジャケに反してビックリするくらい売れ線タイプだ~ウォレント『マネー・ゲーム』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
番外編~残念なジャケット~(第129回):ジャケに反してビックリするくらい売れ線タイプだ
2021年一発目の最終水曜日。今年の景気回復祈願を込めてダサジャケ一丁お届けします。先陣を切るのは去年の連載100回記念セコセコショッピング企画(https://33man.jp/article/column38/009021.html)で購入したアメリカのハードロックバンド、ウォレントの『マネー・ゲーム』だ。
ウォレント『マネー・ゲーム』(1989年)
金に目がくらみ心が堕落した腐れ大富豪を皮肉ったようなこのジャケット。「俺たちは金のために音楽をやるんじゃねえ。商業主義なんてクソだ! ケツの穴にリムジンでもぶち込みやがれ!」的なメッセージを込めたような、このある意味で非常にインパクトの強いジャケットからは尖ったスラッシュメタル系やダーティなロックンロール系の音を予想(期待)してしまう。ところがどっこい、彼らは派手なルックス、ポップな曲調、線の細いハイトーンボーカルと、1980年代にブームを極めたLAメタルの特徴を気持ちいいくらいストレートに踏襲した、ビックリするくらい売れ線タイプの音楽性を持ったバンドなのである。これはちょっと議論だろう。
実際『マネー・ゲーム』はきったねえジャケットとは裏腹に非常に聴きやすいポップなハードロックアルバムで、各楽曲の質も高く演奏も安定しているので幅広い層に受け入れられるタイプのアルバムだ。さらにライナーノーツにはボーカルのジェイニー・レイン本人の言葉が載っているのだが、内容を汲み取るとやはり「売れる」ということもかなり重要視しているように見える。
そうなるとこのジャケットが説得力に欠けて見えてきてしまう。だってこれほど金持ちを醜く描いているとなるとそれ相応の強い思想があるものだと思うだろう。4重アゴなんてそうそう見れるものじゃないぞ? ピラミッドかよ。
そんなわけでジャケットの印象と実際の音楽性にかなりのギャップがあるアルバムなので、予備知識なしで聴くとちょっと驚くだろう。ただ上に書いたとおり楽曲の質自体は高くわかりやすいので、シンプルに音楽そのものは多くの人が楽しめると思う。まあその反面あまりにもLAメタル的要素を平均的に押さえすぎて、このバンドならではの明確な個性に欠けるようにも思えたが。
そういえばフランク・ザッパが昔ビートルズを皮肉って『俺たちは金のためにやっているんだ』なんていうアルバムを出していたね。
ちなみに僕も金のためにやっています。生きるためとやりたいことがやれるようになるために。