僕は日本盤を買ったことを少し後悔した~アディエマス『聖なる海の歌声』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
番外編~残念なジャケット~(第138回):僕は日本盤を買ったことを少し後悔した
今や世間では我が連載の影響で13日の金曜日に匹敵するくらいに不吉な日とされている最終水曜日。というわけで今月の生贄は珍しくニューエイジ系のアーティスト。美しいコーラスが印象的なアディエマスの登場だ。
アディエマス『聖なる海の歌声』(1995年)
ソフト・マシーンというブログレッシブロックバンドのメンバーだったカール・ジェンキンスが主催者となり、壮大なオーケストラと独特のオリジナル言語で歌う重厚な女声コーラスを融合させた音楽で、日本の大自然系のドキュメンタリー番組などでも使用されているため聴けばピンとくる人も結構いると思う。
実はこの連載のだいぶ初期の頃に一度アディエマスのサードアルバムを取り上げているのだが、サードアルバム『永遠の舞踏会』は個人的に一番好きかもしれないほどに素晴らしいデザインのジャケットであった。しかしこのファーストアルバム『聖なる海の歌声』は残念だ。残念なのだ。
おそらくぱっと見た印象だと多くの人が「え? これが残念なの? 別に悪くないじゃん。むしろ綺麗じゃん。目腐ってるの? 腹殴るよ?」と思うことだろう。たしかにこれ単体で見る限りではそう悪くはないジャケットだと思う。しかし実はこのジャケット、日本盤のみの独自のデザインなのだ。では肝心のオリジナル盤のジャケットがどんなのかというと……
これである。
はっきり言おう。絶対にこっちのほうがいい。色調的に暗い印象は受けるが、そのぶん詩的さが増し、深みを感じさせる。対して日本盤のデザインはその辺にありそうな平凡なヒーリングミュージックのひとつといった感じなのだ。
これではただの作品性二の次のデバートの寝具売り場の端っことかに置いてある快眠用BGMのCDみたいである。アディエマスの音楽はそういう類のものではない。本当に人の心に癒しを与えるものというのは無作為にいい音を垂れ流すだけでなく、ある程度の精神性、作品性がともなうものなのだ。『聖なる海の歌声』はBGMとしてももちろん心地良いアルバムだが、しっかり耳を傾けて聴いても非常に質の高いアルバムである。
あと個人的に思うのは、ジャケットデザインにおいて作品性を出したい場合、実写のイルカは要注意だと思う。扱いが難しいというか。多分コアラとかと同じ系統。
なのでオリジナルのデザインと異なるジャケットだとあとから知った僕は日本盤を買ったことを少し後悔したというお話。まあこういったパターンは日本に限らずあり得ますけどね。
あり得ますけどね。
アリエマス、けどね……。