これほどのバンドにシカトこいてきた自分にメッ!である~U2『ノー・ライン・オン・ザ・ホライゾン』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載

連載・コラム

[2021/3/17 12:00]

音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。


第136回:これほどのバンドにシカトこいてきた自分にメッ!である


実はU2をこれまでまともに向き合って聴いたことがなかった。多少気にはなっていたものの「大物だしいずれは聴こうかな」程度の意識でそこまで興味も湧かなかったのだ。

理由はまず自分が普段主食としているタイプの音楽性と違うこと。まあそれは重要ではない。それだけなら多分もっと早く純粋な好奇心から手を出していた。やはり今の今まで僕がU2を通ってこなかった大きな理由は彼らのやたらシリアスなイメージだ。まあこれほど売れているわけだからそれなりの大衆性も持った音楽性なのだろうとは思っていたが、そういったシリアスなイメージのあるバンドというのは、同時にファンもやたら思想が強かったりする。要するにU2に対する見識が自分とずれていたりシンプルに知識が浅いとイッツアマウンティングショーを開催され攻撃されそうなのである。

もちろん実態はどうなのか知らないがシリアスなイメージを抱えているアーティスト(ジャンル問わず)のファンというのは得てしてその傾向がある。そんななんとなくのイメージからまだまだたくさんいる未知のアーティストたちのなかで彼らを選ぶ優先順位が低くなってしまっていたというのが正直なところだ。とはいえどんなイメージがあろうと彼らほどのバンドであれば自らの表現に真摯に向き合ってやっていることは間違いないはずなので、ここはひとつイメージを恐れず己の音楽的好奇心のみに従い聴いてみようではないか。

というわけで今週も昨年の100回記念セコセコショッピング企画(https://33man.jp/article/column38/009021.html)にて購入したなかから、満を持してU2のご登場だ(ここまで前置き)。

U2『ノー・ライン・オン・ザ・ホライゾン』(2009年)

<あの海外セレブの背後に偶然ロバートが写り込む奇跡>

結論から言ってしまうと、これほどのバンドに今までシカトをこいてきた自分にメッ!である。このアルバムには圧倒的なオリジナリティがあった。確かにイメージどおりシリアスではあり重苦しい雰囲気が全体を覆っているのだが、そんなどこか冷たく無機質な印象の向こうに大きな光や希望を見出せるような、血の通った温かさを感じる作品であった。ボノのボーカルは非常に味があり感情表現に優れている。『ホワイト・アズ・スノウ』のような儚げな曲は彼の声でなければここまでの説得力を持てないと思う。ジ・エッジのギターはオリジナリティの塊だ。いわゆるキラーチューンと呼べる曲がいくつかあるなか『フェズ-ビーイング・ボーン』の美しさには呼吸が止まる。

ジャケットは日本人の写真家、杉本博司氏の作品で、『海景』シリーズのうちのひとつ『Boden Sea, Uttwil』を使用している。人類が初めて海を見たときにどう見えたかをテーマとした作品のようだ。このシンプルで詩的な雰囲気はU2の音楽性にこの上なくマッチしている。ちなみにケースには「=」のシールが貼られているが、ディスクユニオンで見たときは特殊な万引き防止システムか何かかと思った。

ちょっとU2はまた別のアルバムも聴いてみたいと思わされるほどの衝撃だったので、早い段階で知識を深めて思想強めの面倒くさいファンになろうと思う。

平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)

ひらい“ふぁらお”ひかる●1984年3月21日生まれ、神奈川県出身。2008年に新道竜巳とのお笑いコンビ“馬鹿よ貴方は”を結成。数々のテレビ/ラジオ番組に出演するほか、『THEMANZAI2014』『M-1グランプリ2015』の決勝進出で大きな注目を集める。個人では俳優やナレーターとしても活躍。音楽・映画観賞や古代エジプト、恐竜やサンリオなど幅広い趣味を持つ。