ジャケットデザインの露骨な変化がもたらした悲劇~ルネッサンス『カメラ・カメラ』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
番外編~残念なジャケット~(第133回):ジャケットデザインの露骨な変化がもたらした悲劇
今月はもともと残念なジャケットとして取り上げようと思っていたザ・フーが実はかっこよかったというハプニングに見舞われた月だったが、こちらは当初の予定どおりの残念なジャケット。というわけで昨年の100回記念セコセコショッピング企画(https://33man.jp/article/column38/009021.html)にて購入したなかから英国ブレグレッシヴロックバンド、ルネッサンスの登場だ。
ルネッサンス『カメラ・カメラ』(1981年)
過去にもこの連載で取り上げたことのあるバンドだが、なんといっても彼らの魅力といえばクラシカルなサウンドとファンタジックな世界観。そしてそこに妖精のようなアニー・ハズラム(ボーカル)の艶やかな歌声が乗ることで至高のルネッサンスワールドが完成する。
しかし今回のジャケットを見ると、とてもそんなファンタジックな世界観を持ったバンドだとは思えないだろう。それもそのはず、この『カメラ・カメラ』は彼らが時代の変化に合わせてその方向性を大きく変化させたアルバムだったからだ。それゆえに1970年代からの彼らのファンからは総スカンをくらったという問題作で、1980年代特有のディスコチックなポップサウンド、デジタルサウンドをらしくもなく取り入れているのである。
その背景にはプログレ界の大御所が関わったエイジアの成功やイエスの方向転換による成功があったものと思われ、そういった時代の変化に合わせでもしなければプログレバンドが生き残っていける可能性は薄いと判断してのことだったのだろう。しかし残念ながら彼らの方向転換は受け入れられず、このあとアルバムを1枚発表したのみで解散してしまう(現在は再結成し活動中)。
そんな前評判を知っていたうえで聴いたからなのか、内容的にはそれほど抵抗なく僕は受け入れられた(これぞハードル理論)。確かに1970年代の彼らの音楽性と比べれば幾分産業ロック的にはなったが、ジャケットの印象ほどではない。彼ららしい深みのある世界観を展開している曲もあるし、ポップな曲でもそこはやはりルネッサンス、質そのものは高い。なかでも『ウクライナへの道』はまさに1970年代のルネッサンスを彷彿とさせる名曲だ。
そう、要するにジャケットが問題なのである。このジャケットの印象でより彼らは変わってしまった感が強くなっているのだ。もともとこういう都会的なイメージのバンドであればそれほどヒドいジャケットとも思わないが、何しろもとが以下である。
あら可愛い。まるで絵本のようね(このアルバム『お伽噺』はこの連載でも過去に取り上げているので読んでね)。
https://33man.jp/article/column38/008524.html
それがこれである(本作裏ジャケット)。
おかしいねえ。なんだいその鮮やかなシャツは? 笑ってますけど。
この第一印象を左右するジャケットデザインの露骨な変化が「彼らは変わってしまった」という印象を強くファンに植えつけてしまったのだろう。もちろんそれは彼らも予想したうえで生き残っていくため、新規ファンの開拓のためにやったことだとは思うが。ただ上述したとおり音楽性に関してはジャケットの印象ほど露骨には変化していないので、外面にとらわれなければ全然楽しめる内容である。
商業の世界で生き残っていくために妥協するか、それとも我を通すことを優先するか。これは他人事でなく我々にとって永遠のテーマである。そういうことを考えさせられるという意味では貴重なアルバムともいえる。
鮮やかなシャツ着て笑いながら誰もついてこれないようなことをする、これもまたひとつの方法。