僕の思い描くカッケー老人のひとつの理想像~チャーリー・ダニエルズ・バンド『シンプル・マン』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載

連載・コラム

[2021/3/3 17:00]

音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。


第134回:僕の思い描くカッケー老人のひとつの理想像


今セコ(今週も昨年の100回記念セコセコショッピング企画https://33man.jp/article/column38/009021.htmlにて購入したなかからご紹介)。

チャーリー・ダニエルズ・バンド『シンプル・マン』(1989年)

<あの海外セレブの背後に偶然ロバートが写り込む奇跡>

まず言っておく。尾崎紀世彦さんではない。チャーリー・ダニエルズというカントリーミュージシャンである。セコセコショッピングにてディスクユニオンのカントリー/ブルーグラスの棚で見つけ、そのただ者でない雰囲気に惹かれジャケ買いを実行させていただいたお方なのだが、実際ただ者ではなかった。1950年代から活動している大ベテラン(それは風貌でなんとなくわかるが)で、さらにボーカル、ギターにフィドルまでこなし、カントリー畑のミュージシャンとしてはかなりの成功者のようだ。日本ではあまり知られていないようだが。

音楽性的にもあくまで同作を聴いた限りでの印象ではあるが、コテコテのカントリーというよりはカントリーロック、サザンロックに近い雰囲気があり、エレクトリックギターもフィーチャーしつついかにも1980年代的な音作りで、意外なほどポップな作風である。なにしろあのニッケルバックやKORNまでもが彼の曲をカバーしているというのだから、実際ロックとの親和性はかなり高いということだろう。個人的にはジャケットの雰囲気もありもっとコテコテの乾いたカントリーサウンドを期待していたので、はじめはやや肩透かしをくらった感はあったが、1980年代のサザンロックと割り切って聴けば全然楽しめた。

で僕がジャケ買いを実行するほどに惹かれたジャケットだが、アルバムタイトルどおりの非常にシンプルな顔面アップ写真。本当に一切奇をてらわない何気ない写真だが、だからこそチャーリー・ダニエルズというひとりの男の醸し出す哀愁、高みに到達した者ならではのオーラのようなものが浮き彫りにされている気がするのだ。この内側からにじみ出る魅力。昨今の外見盛り盛りインスタ世代にも見習ってほしいものだ。僕の思い描くカッケー老人のひとつの理想像をそのまま具現化したかのような素晴らしい肖像写真である(もうひとつの理想は落語家)。

ところでこれは完全なる偶然だが、実はチャーリー・ダニエルズは昨年7月に亡くなっていたらしい。83歳であった。セコセコショッピング企画を行ったのは昨年8月。そのタイミングで僕が彼のアルバムを手に取ったというのは、100%後継者に選ばれたということだろう。僕の場合はお笑いを通して彼のような内側からにじみ出る魅力をもった男になれということか。ならば20年後には同じ構図の肖像写真を僕が撮っていることになると思うのでどうぞお楽しみに。

ではまた逢う日まで(来週)。

平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)

ひらい“ふぁらお”ひかる●1984年3月21日生まれ、神奈川県出身。2008年に新道竜巳とのお笑いコンビ“馬鹿よ貴方は”を結成。数々のテレビ/ラジオ番組に出演するほか、『THEMANZAI2014』『M-1グランプリ2015』の決勝進出で大きな注目を集める。個人では俳優やナレーターとしても活躍。音楽・映画観賞や古代エジプト、恐竜やサンリオなど幅広い趣味を持つ。